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カスタマージャーニーの教科書 11章 メディアプランデザイン – カスタマージャーニーに寄り添う媒体計画

カスタマージャーニー視点でのメディアプランニングでは、カスタマージャーニーに寄り添い、行動や態度を効率的に変容させるストーリーテリングを行う為の【コンタクトポイント/媒体の選択】と【コンタクトポイント間/媒体間の導線】、および【コンテンツ提供シーン】の決定を設計します。カスタマージャーニーを動かすストーリーテリングには、慎重なコンタクトポイント編成が求められます。

本章では、認知の評価から、カスタマージャーニー視点でのメディアプランニング、コンタクトポイント選択・編成に使える考え方を紹介していきます。

「認知」を分析し、どれ位の規模のカスタマージャーニーを促進できるのか確認

カスタマージャーニーを促進する戦略は、態度や行動の質を変化させる戦略です。その為、優れたブランド体験を得てもらう、求められている情報を提供するなど、”質”を中心としたプランニングになります。ただしその前提として、「促進するカスタマージャーニーが、相応規模のターゲット層の買い方や選び方を表している事」、つまり”量(認知)”の問題をクリアしている必要があります。一定以上の認知者数がいなければいかに効率的にジャーニーを促進できても、その結果得られるリターン(客数や売上など)は微々たるものになってしまいます。従って、まずターゲット層で十分な認知がとれているか、を評価します。

次に、各媒体が認知をどれだけ「効率的に」獲得できているかを確認します。各媒体のCPA(Cost Per Acquisition)を推定して、認知獲得の費用対効果を評価します。ここで他媒体に比べてあまり費用対効果が良くない媒体に関しては、予算再配分の検討候補となります。ただし、一点注意があります。ここでのCPAは「認知フェーズ」のみに対してのCPAです。言い換えれば、認知フェーズに対してはあまり費用対効果が良くなくても、ジャーニーの他のフェーズに対しては良いかもしれません。従って、ジャーニー全体に対しての費用対効果を見るまでは結論を急ぐべきではありません。ジャーニー全体に対しての費用対効果の診断は、後で詳述します。

ここまで分析が進むと「では、どれ位の認知を獲得すれば十分か?」という事になりますが、この問題についてはマージナルゲイン(限界利益)とマージナルコスト(限界費用)の視点が有用です()。あるマーケティング施策を展開し、新たに1%の認知率アップを狙うとします。この時新たに認知率を1%上げるのに必要なコストに対して、その1%上げた認知者層から最終的に期待できるリターン(売上)を比べます。リターンの方が大きければ認知率を上げるべきですが、コストの方が大きければ、これ以上認知率をあげる為にコストを投下するべきではありません。 

※通常認知率を上げればその分買ってくれる人が増えるので期待売上は増加するわけですが、後者の場合は、新たに認知率を1%上げてもそこから得られる売上はかかるコストをペイできない状態にある、つまり分水嶺を超えているわけです。これはテストの点数に置き換えて考えると分かりやすいかもしれません。ある学科のテストで30点しか取れない生徒の成績を60点に引き上げるのは割と容易ですが、すでに95点とれる生徒が確実に100点をとれるようにするのは非常に難しい(コストがかかる)でしょう。しかも前者は30点アップしますが、後者は5点しかアップしません。後者の場合、95点を100点にする為に使う時間や費用を他の学科の勉強に費やした方がよいでしょう。

​コンタクトポイントのパフォーマンス(KPI)から、媒体の編成と組み合わせを考える

十分な認知がとれている事が確認できれば、次に、設定したビジネスゴールに対して、最も効果的なコンタクトポイント及び、クロスメディア(媒体間の導線)を検討します。ここでのアプローチにおいて重要なのは、カスタマージャーニーのどの段階で、どのような目的の為に、どのような媒体を、何故用いるべきなのか、という視点で分析することです。

コンタクトポイントには、選択時のKPIと編成時(組み合わせ)のKPIがあります。そのKPIからどのコンタクトポイントを使うか考える事ができます。KPIですので定量的な評価となり、データドリブンでコンタクトポイントを決めていく場合に有用です。まず、コンタクトポイントの選択時の主要KPIは、ジャーニー促進の視点から見た媒体/顧客接点の効果、費用対効果です。

 「コンタクトポイントを選択する時のKPI」

  ●リーチや顧客獲得単価(CPA)
  ●売上寄与額
  ●離反防止効果
  ●機会損失額
  ●ROI、ROASなど費用対効果

このようにコンタクトポイント単体としてのパフォーマンスや費用対効果がKPIとなります。次に、編成時はコンタクトポイントを組み合わせた時の効果、つまりクロスメディアを意識した時の役割や機能がKPIとなります。具体的には

 「コンタクトポイントを編成(組み合わせる)する時のKPI」

  ●店頭への送客効果
  ●コンタクトポイント間の送客数と向き
  ●コンタクトポイントの組み合わせによる相乗効果(効果が何倍になるか)

などがKPIとなります。これらのKPIを算出するには、コンタクトポイントの直接効果、間接効果を推定し、各コンタクトポイントに由来する売上金額や集客数などを推定できる解析アルゴリズムが必要です。また、購買行動プロセス全体からみたバランスに過不足がないか、も評価する必要があります。例えば、関心や動機形成など態度変容ばかりに強いコンタクトポイントやメディアばかり選んでいて、直接的に購買に影響するコンタクトポイントや購買後をケアするコンタクトポイントが不足している、などの偏りがないか、です。行に購買段階、列にコンタクトポイントを持ってきた星取表の形にまとめてみると良いでしょう。表の中には、上記のKPIを総合的に見た時の各コンタクトポイントの各購買段階に対するパフォーマンスを、○(良い)、△(普通)、×(悪い)などの分かりやすいシンボルに置き換えて配置します。

媒体の組み合わせによる効果

カスタマージャーニーマップからコンタクトポイント/媒体編成を考える基本

データドリブンで作成したカスタマージャーニーマップから、マーケティングゴールに対して効果の高いコンタクトポイントや、コンタクトポイント間の行動導線についての基本情報を読み取る事ができます。以下の様な視点から読み込みをしてみて下さい。

 ●日常の生活行動の中で、どの段階でどのようなコンテンツ(情報)とどこで(コンタクトポイント)接触したか。
 ●その結果、どのような行動変化や態度変容が起こったか、もしくは起こらなかったか。
 ●情報がない場合に、どこに取りに行くか。
 ●どんなタイミングやシーンで課題や問題を認識、もしくは再認識するか。そのシーンに寄り添えるコンタクトポイントは何か。

特定のテーマに特化して構成されたカスタマージャーニーマップから、コンタクトポイントの選択と編成を考える

通常のカスタマージャーニーマップに加えて、特定のテーマに特化して構成されたカスタマージャーニーマップを読み込むことで、より深い洞察を引き出す事ができます。以下にその一例を掲載します。これらのジャーニーマップの読み解き方は、【消費者行動図鑑】でより詳細に解説されています。​

コンタクトポイントエクスペリエンスジャーニー

コンタクトポイントエクスペリエンスジャーニー消費者行動図鑑で詳しく見る

​​各コンタクトポイントにおけるブランド体験を生活者の言葉でまとめる事に特化したカスタマージャーニーマップです。ここから、コンタクトポイントのカスタマージャーニーに対する影響、つまり行動や態度の変化に対してどのような役割を果たすことができたか、を生活者の視点で読み取ることができます。​​

レレバンスプランニングレポート

レレバンスプランニングレポート消費者行動図鑑で詳しく見る

「商品が自分ゴトされるプロセスに沿って、効率的なコンタクトポイントを編成する」という目的にフォーカスしたカスタマージャーニーマップです。コミュニケーションゴールがはっきりしている場合は、そのゴールに至るプロセスと促進要因、阻害要因を配して、コンタクトポイントと紐付けるようカスタマイズされたカスタマージャーニーマップが役に立ちます。​

コンテクストプランニングレポート

コンテクストプランニングレポート消費者行動図鑑で詳しく見る

商品が消費者に強く記憶され高い純粋想起率やTOP OF MINDとなるプロセスに沿って、効率的な編成を考えることにフォーカスしたカスタマージャーニーマップです。顧客が生活文脈の中の出来事から特定ブランドを連想するまでの過程を可視化し、連想に影響を及ぼしているコンタクトポイントを読み取ることができます。​​

ドライバーレポート

ドライバーレポート消費者行動図鑑で詳しく見る

現在の購買行動プロセス全体を”診断”するタイプのカスタマージャーニーマップから、商品が選ばれる「成功パターン」のコンタクトポイント編成」から学びを得て次の戦略に繋げる、という方法もあります。

ボトルネックレポート

ボトルネックレポート消費者行動図鑑で詳しく見る

売れ行きがかんばしくない、予測を下回っている、等の場合は何故買われないのかに着目して、選ばれない/拒絶される/比較時に足切される時の「失敗パターン」からコンタクトポイントの編成の問題点と改善点を見つける、という方法もあります。
 

特定のコンテンツとコンタクトポイントの組み合わせが持つ、「ジャーニーを進める力」から考える

次に、「どの媒体を通して、情報を提供するのが一番効果的なのか」を検討します。ここで、1つ注意があります。「カスタマージャーニー」と「コンタクトポイントにおけるブランド体験」は、ジャーニーマップ上同時に記載される事が多いのですが、マーケティングマネジメントの観点からは別の意味を持ちます。カスタマージャーニーが自然な生活者の動き、つまり動線を表すのに対し、コンタクトポイント編成は企業視点です。生活者のジャーニーに介入して影響を及ぼし、態度や行動を変化させる事でジャーニーを促進する為に企業が描く導線です。従って、媒体選定やコンタクトポイント編成も「いかに効率よくカスタマージャーニーに寄り添い、進める事ができるか」という視点から考えるべきです。だからこそ<ストーリーデザイン 行動を生む情報価値の設計とストーリー開発>で解説したように、「あるべきブランド体験を実現する期待値の高い情報間導線を先に設計しておき、それぞれの情報コンテンツに適した媒体を後から組み合わせる」というアプローチが有効であり、適切な媒体予算配分に繋がるわけです。

さて、コンテンツ(情報、ストーリー)とコンタクトポイントの整合性に正確を期すなら、「どのコンタクトポイントで、どんなコンテンツを提供するのが最適か?」という視点から分析を進めます。具体的には、コンテンツとコンタクトポイントの「特定の組み合わせが、どれ位ジャーニーを進める力を持っているか」というパワーを算出する解析を行います。

ブランドコミュニケーションポートフォリオ

分析例:ブランドコミュニケーションポートフォリオ(市場調査クリニックで詳しく見る)

解析を行うと、上記の様なアウトプットが出力されます。列に購買モデルの各フェーズ、行にコンテンツ(チェックポイント)とコンタクトポイントの組み合わせが記載され、それらがクロスするセルの中にはその組み合わせ、つまり「特定の購買段階において、どのようなコンテンツをどのコンタクトポイントで提供した時、どの程度ジャーニーを進める力があるか」を示す数値が入っています。この数値が大きいほど優れた組み合わせであり、カスタマージャーニーを促進し、売上に繋がる道筋を構成する力が強い、という事になります。また、購買プロセスにおいてボトルネックがある場合、つまりある特定の購買ステージにおいて停滞が起こっていて、その結果購買への育成が滞っている場合、そのボトルネック箇所に対して特にドライブ力が強いコンテンツを見極めることもできます。プロセス停滞を解消することがコミュニケーション戦略上は優先して対処すべき課題です。
 

<10章 ​ストーリーデザイン 行動を生む情報価値の設計とストーリー開発

12章​ カスタマージャーニー視点で検証する広告効果と費用対効果>


カスタマージャーニーの教科書 目次

序章​はじめに

1章​カスタマージャーニーで考える意味と価値

2章​カスタマージャーニーの利用範囲、応用領域

3章​カスタマージャーニーの定義、及び類似概念との相違点、注意点について

4章​データドリブンでカスタマージャーニーマップを作成する

5章​カスタマージャーニー設計におけるゴール設定 – 成果指標と中間指標(KGI、CSF、KPI)

6章​カスタマージャーニーベースのインサイト探索と価値算定

7章​ブランドが目指すべきカスタマージャーニーの設計と認識変化

8章​ブランド体験デザイン ブランドが果たすべき役割と体験価値の設計

9章​リテンションデザイン 顧客の離反、流出、競合スイッチ防止

10章​ストーリーデザイン 行動を生む情報価値の設計とストーリー開発

11章​メディアプランデザイン カスタマージャーニーに寄り添う媒体計画

12章​カスタマージャーニー視点で検証する広告効果と費用対効果

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