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カスタマージャーニーの教科書 1章 カスタマージャーニーで考える意味と価値

本章はカスタマージャーニー及びカスタマージャーニーマップについて初めて触れる方の為に、基礎的な考え方やメリットを解説している入門コンテンツです。

カスタマージャーニーについてある程度の知識がある方にとっては既知の内容になりますので、第2章「カスタマージャーニーの利用範囲、応用領域から読み始めて下さい。

プロセスの可視化と介入 – プロセスを変える事で結果を変える

コミュニケーションプランニングの目的は、最終的には来店や購買などのビジネスゴールを達成する事です。しかし顧客のカスタマージャーニーに変化を起こせない限り、結果は変わりません。カスタマージャーニーに基づいて、ジャーニープロセスを促進する事に焦点を当てたプランニングを提唱する最大の理由はそこにあります。直接プロモーションの対象となるのはプロセスであり、ジャーニーも一種のプロセスです。プロセスを可視化できれば、そのプロセスを分解して、それぞれのフェーズで適切なマーケティング的介入を行い、狙った変化を効率的に生起させる事ができます。それが結果的にジャーニーというプロセス全体を促進させ、最も合理的にゴールを達成する手段となります。

その為にまずプロセス、つまりジャーニーの可視化が必要となります。カスタマージャーニーマップを使うと、人の行動や態度の時系列変化がどのように起こっているのかというプロセスを、内外要因の影響を含め、グラフィカルに把握する事ができます。例えば、ある特定のゴールに対して人がどのように動くのか、経路がどのように分岐するのか、プロセスの途中でどのような問題に直面し何を考えどの様な行動をとるのか、どのような情報と接触しどのように意思決定を行い、最終的にゴールに辿りつくか、というプロセスを一枚の絵(マップ)上に表現します。

事例を通して理解する、カスタマージャーニーマップのご利益
:老舗旅館でのサービス改善

カスタマージャーニーマップをサービス改善や製品要件改善の為に使った事例を通して、ジャーニーで理解する事が、従来の市場調査やコンサルティングとどう違い、どんな優位性があるかについて解説します。改善の為の調査・分析のゴールは、「何をどうすればよいのか」根拠を持って明確にはじき出す事です。そうでなければ、現場で使えません。ここでは、地方のある老舗旅館でのサービス改善を事例に進めていきます。

1)「問題が発生する構造」を把握する事が、満足度向上の具体的な打ち手を導く

まず大切なのは、不満足の原因がサービス全体の流れの中でどのようにして起こったかという「問題が発生する構造」を知らないと、効果的な改善施策に繋がらないという事です。何が問題だったのか、それ単体で把握する事にあまり意味はありません。例えば、顧客にアンケートをとって、

 ●サービスが悪かった(34%)
 ●接客がイマイチ(21%)

などのデータがとれたとしましょう。しかし、これらは「カスタマージャーニーマップ上のどのポイントでのどういう不満なのか分からなければ、手の付けようがない」という問題をはらみます。サービスや接客などざっくりとした聞き方でアンケートをとっても、「で、どうしようか?何をすればいいんだっけ」となり、明確な指針やワークに落とし込めません。サービスをよくしよう!接客を頑張ろう!はただの”掛け声”です。従業員の行動は変わりません。行動が変わらなければ、当然の帰結として満足度も変わりません。

これは調査に不慣れな方によくみられるのですが、本質的に必要なのは「明日から、誰が、何をやるか。それは何故か」です。つまり具体的なやるべきこと、すぐ改善に繋げることができるポイント=TODOとその根拠を特定する事です。その為には、顧客が感じる不満の「原因」「感情」「条件」「連鎖」などの因果関係を把握するアプローチが有効です。不満が顕在化するまでの出来事の連なり、つまりカスタマージャーニーマップにより不満が発生する構造を把握する方法です。

2)顧客の「期待-実体験のギャップ」を具体的な施策につなげる

不満の構造を知れば、顧客の期待ギャップがどのように発生しているのか、を知る事もできます。顧客が持っている事前情報による期待とサービスの実体験のギャップは認知的不協和を生み、それが不満や残念という気持ちを生み出し、非推奨へと繋がります。従って、ギャップを知る事は具体的な改善の打ち手を考えるスタート地点です。例えば、

・期待していたほどの料理じゃなかった、という人が一定以上いた

という場合、最初に顧客に期待を持たせたのはどの顧客接点か、旅行代理店のパンフレットか、ウェブの広告か、自社サイトか、友人のフェイスブックか、をまず知る必要があります。そしてその事前情報と実際に提供された料理がどのように違ったかを検証すれば、どの程度の”期待外れ”が生じているのか、把握する事ができるでしょう。つまり不満が「何と何の差分から来ているのか」を知らなければ、そのギャップは戦略的に埋められないという事です。

このジャーニーマップを読むと、事前期待は友達のフェイスブックの投稿内容およびフリーペーパーで発生しています。これらの接点では、料理の内容がオプションを含めた”全部盛り”の状態で紹介されていたため、その料理内容が普通に出てくるという期待を生んでいます。そして一緒にデートをしていた彼女にも事前に話をして、彼女の料理への期待も高まっていたため、結果として彼氏が恥をかいてしまった、という構造です。二人分のギャップが生まれてしまったジャーニーです。示唆としては、基本コースとオプションそれぞれを明確にした画像を記載して、予約時に価格と内容を選択してもらう、事が読み取れます。

3)【場合・状況混み込みの理解】がなければ顧客満足につながる本質的な改善はできないし、ノウハウや経験は蓄積されない

サービスの改善にしろ、製品要件の改善にしろ、結局のところは「何=What」を改善するのかという問題に帰結します。しかし良いモノを作りプロダクトアウトすれば売れる時代とは違い、現在ではwhatの改善は必ず、why(何故か?)による裏付けがされるべきです。机上の空論にならないために、その改善案がどこから来ているのか、ターゲットのどんな要望に応える形で展開される施策なのか、という裏付けが必要という事です。例えば顧客アンケートで、

 ・パンフレットが分かりにくかった

というデータが上がってきたとします。ここで重要なのは、「パンフレットが分かりにくかった結果、顧客にとってどのような悪い結果が起こったのか」まで知らなければ、本質的な顧客満足には繋がらないという事です。顧客満足というのは恐らくパンフレットの仕上がりがよくなることではありません。パンフレットという顧客接点から始まるジャーニーが、顧客にとって”良い体験”になることです。故に、パンフレットという顧客接点での経験とそこから始まるジャーニーの帰結のプロセスを知る事が重要になります。もしかしたらパンフレットの分かりやすさや利便性とは関係ないアプローチの方が、ジャーニー全体の満足度や質は高まるかもしれません。しかし「パンフレットは分かりやすかったですか?」と直接聴取する定点質問では分かり得ないことです。

また問題の前後関係が分からなければ、ノウハウや経験にはなりません。いわゆる経験則とは、こういう場合はこうだからこういう対応がよい、とその場の文脈と自身の経験を照らし合わせて最適な対応や施策を導くものです。「迅速に対応しろ」といっても、前後関係の文脈や理由が分からなければ、どういう手順で何を優先すべきかわからず、結局詳細な指示が必要となるでしょう。「場合・状況混み」の理解でなければノウハウや経験が蓄積されません。カスタマージャーニーマップをちゃんと作れば、どういうバックグラウンドでその不満が出て来たのか、何故そうなってしまったのか、どこで介入することで違う結果が得られたのか、を状況込みで学ぶ事ができます。

次のカスタマージャーニーマップを見てみましょう。

旅館周辺の散策と、美味しい地元料理の店にいきたかった。パンフレットにコンシェルジュサービスがあると書いてあった為、色々紹介してくれると思ったら「隣町に住んでいるからよく知らない」と言われてしまった。コンシェルジュが受付の担当者が兼任しているだけで、紹介内容や店の知識、予約サービスなどは属人的な判断に任されている状態だった。結果、自分で探す羽目になったがそのきっかけがパンフレットの記述だったため、アンケートにはパンフレットが分かりにくかったと書いた、というストーリーです。​

コンシェルジュという記載をやめるか、コンシェルジュサービスと銘打つならニーズに基づいたコンシェルジュとしての業務内容の洗い出しをするべきと言えます。「名物料理を旅館の外で散策しながら堪能したい」というニーズが多いなら、地元店とのタイアップサービスや、旅館は素泊まりで地元の飲食店を堪能するプランなどを打ち出せます。また、地元料理店に詳しい従業員から情報を集め、マニュアルやブックレット、紹介マップなどに一元化してノウハウとして残し、パンフレットには地元料理紹介に特化したコンシェルジュサービスです、と明記するるべきと考えられます。

4)1人のジャーニーの不満を解決することで、将来の数十人、数百人の見込み顧客の損失を防ぐ

顧客満足度や利用実態調査などは従来、大規模定量調査が基本でした。それは、自社の顧客の満足度指標としての代表性を確保する為です。しかし、早急に地に足がついた具体的な改善を推進していく場合は、n=1をじっくり分析したほうが効果的な場合もあります。1人の不満を解消しても…と思われるかもしれませんが、逆に氷山の一角を観測できた、と考える方がリスクマネジメントの観点からは無難です。顧客1人が顕在化させた不満は、よほど特殊な場合を除き他の顧客も大なり小なり感じている不満と考えるべきです。何故なら旅館やホテル、他にもレストランやレジャーランドなどは、特定の決められたルール、マニュアルに沿って展開されるサービスだからです。それに沿ったサービスを展開した上で出現した不満は、所詮その1人が言っているだけと軽視しない方がよいはずです。

そして、今は顧客1人が影響力や情報発信力を持つ時代です。よほど満足すれば周りへの推奨という形でポジティブなドライバーとして働いてくれますが、顧客は「普通に満足できるのは、今の日本なら当たり前」と考えます。しかし不満は逆です。不満足はその問題や原因を容易に想起できるため、顧客の中で顕在化されやすい性質を持ちます。そして1人がネガティブな情報を発信して、それをネットや口コミで見聞した人が脱落すると考えれば、特定の1人の不満をそのままにしておけば、将来の数十、数百人の機会損失に繋がる可能性もあります。
 

<序章 ​はじめに

2章​ カスタマージャーニーの利用範囲、応用領域


カスタマージャーニーの教科書 目次

序章​はじめに

1章​カスタマージャーニーで考える意味と価値

2章​カスタマージャーニーの利用範囲、応用領域

3章​カスタマージャーニーの定義、及び類似概念との相違点、注意点について

4章​データドリブンでカスタマージャーニーマップを作成する

5章​カスタマージャーニー設計におけるゴール設定 – 成果指標と中間指標(KGI、CSF、KPI)

6章​カスタマージャーニーベースのインサイト探索と価値算定

7章​ブランドが目指すべきカスタマージャーニーの設計と認識変化

8章​ブランド体験デザイン ブランドが果たすべき役割と体験価値の設計

9章​リテンションデザイン 顧客の離反、流出、競合スイッチ防止

10章​ストーリーデザイン 行動を生む情報価値の設計とストーリー開発

11章​メディアプランデザイン カスタマージャーニーに寄り添う媒体計画

12章​カスタマージャーニー視点で検証する広告効果と費用対効果

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