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[事例 Ⅰ 台所用洗剤]商品の利用シーンを拡大する

最初は台所用洗剤の利用シーンを拡大するという事例です。ブランドの特徴は「水回りから壁面まで全部まとめてスプレーできる」ことです。登場する未顧客は、家で子育てと仕事を両立させている女性ライターで、場所は自宅、時間は早朝です。読者の皆さんは、この台所用洗剤のマーケティング担当者になったつもりで、「このCEPとブランドを結び付けるには、どのようにブランドを再解釈するべきか」考えてみてください。

[1]オルタネイトモデルを作る

文脈の中心には「朝に台所を軽く掃除する」という行動があります。利用機会を拡大したいメーカーとしては、この行動を増やしていきたいところです。

 

まずは、ストーリーをオルタネイトモデルに落とし込んでいきましょう。このケースでは、未顧客の欲求を見極めることがポイントです。「朝のゆっくりな時間の流れが好き。私にも家にも命が吹き込まれる感じ」という発言から、逆にいつもは「忙しくて自分の気持ちを顧みる余裕や時間がない」のではないかと考えられます。つまり、普段は仕事や家事、育児に忙殺されていることが予想されます。ということは、「自分のことを大切にする余裕が欲しい」という言外の欲求がありそうだと推察できます(図表51)。

[2]随伴性を把握する

次に、行動の前後にある随伴性(欲求、行動、報酬のループ)を確認しましょう。まず、「自分のことを大切にする余裕が欲しい、朝のゆっくりとした時間の流れが好き」という欲求があり、それが「朝に台所を軽く掃除する」という行動につながり、その行動が「台所は一日に何度も行くから、きれいだと行くたびにうれしくなり、気持ちに余裕も出る」という報酬を生み出しています。この報酬は欲求を満たしているため、望ましい行動を増やす強化子として働いていることが分かります。つまり、この報酬とブランドを結び付けてループを強化することがポイントになってくるわけです(図表5-2)。

[3]ベネフィットを再解釈する

では、ブランドの特徴(「水回りから壁面まで全部まとめてスプレーできる」)と報酬を組み合わせてベネフィットを作ります。ここで、報酬の中の「命が吹き込まれる感じ」「台所がきれいだと行くたびにうれしくなる」といった発言に着目します。「命が吹き込まれる感じ」という発言からは、停滞していたものがリセットされて動き出す感じや、良い一日が始まる起点への期待感が伝わります。「台所がきれいだと行くたびにうれしくなる」からは、仕事や子育ての合間に気持ちを整えてモチベーションを保つ、休憩所のような役割が見えてきます。

つまり、朝に台所をきれいにするという行為は、単に家事の一つというだけでなく、新しい一日を始めるリセットボタンであり、仕事や家事に忙殺される中で人間らしい生活ができていることを確認することの一部なのかもしれません。

そこから、「リセット」という表現を採用し、「台所周りはこれ1本で簡単リセット。朝スプレーするだけで行くたびにうれしくなるキッチンに」というベネフィットとして解釈してみました(図表5-3)。

[4]ブランドを再構築する

こうして作成したベネフィットを報酬部分に配置したのが、図表5-4のオルタネイトモデルです。

最初のオルタネイトモデル(図表5-1)と異なるのは2点です。一つは、ブランドを起点に欲求―行動―報酬(ベネフィット)の間に明確なループ構造ができていることです。

もう一つは、きっかけにも再解釈を加えていることです。図表5-1では「早起きしてコーヒーを入れる待ち時間」がきっかけでしたが、図表5-4では「前日の料理の臭いがこもり、調味料や油跳ねの汚れが目立つ台所」に変わっています。これは、「台所がきれいだと行くたびにうれしくなり、気持ちに余裕も出る」という報酬の逆の状態を表現しています。このようにストーリーの中に対立構造を設けることで、行動から得られる報酬感を高めることができます。広告クリエイティブの開発でよく使うテクニックですが、報酬の対極の状態を敢えて描くことで、


台所=「ゲンナリする所」


というマイナスの基準点が生まれ、そこから


台所=「行くたびにうれしくなる所」


と知り直した時の感情の揺れ幅が大きくなります。より心理的な報酬を感じられるストーリーになるわけです。

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