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トライアルリピートモデル・シミュレータ

売上予測の為の市場調査「売上・販売量予測モデルの作り方」

一般消費財の1年間の製品の売上げを予測する  

Q 新製品のコンセプト開発を進めています。ある程度精度良く、初年度の売上予測を行う事を求められているのですが、どのように計算したら良いのでしょうか?

コンセプト開発を進めている鍋用調味料があるのですが、開発推進の承認を得る為、ある程度精度良く初年度の売上予測を行う必要があり、どのような計算方法で考えれば良いか悩んでいます。ターゲットは「共働きの忙しい、でも家事はしっかりやりたい20~30代の主婦」で、調査の結果日本全国で約300万人と推定されました。その内、新製品に対して購入意向が高い人の割合は”非常に使ってみたい”+”使ってみたい”が30%でした。価格は1本380円位を考えています。このカテゴリの調味料はおよそ1か月で消費されるので、初年度の売上予測は300万人×30%×380円×12ヶ月=41億400万円でいいのでしょうか?

正直、そんなに売れるのかな、という予測値なのですが・・・。もっと精度良く売上予測をする方法があれば教えて下さい。また、目標売上を達成するためのマーケティング施策も同時に考えないといけません。どういうデータでどういう分析をすればよいでしょうか?

A 「トライアルリピートモデル」をベースに、「質的選択モデル」を組み合わせて売上予測シミュレータを作成し、売上予測+マーケティング施策レベルでの最適化シミュレーションを行いましょう。

予測の精度を上げるには、「ターゲットの潜在市場規模を見誤らない事」、「製品の買われ方(消費者の購買行動)をモデルに組み込む事」、「競合の影響力を加味した計算をすること」、「”購買意向”と”実際の購買”の差分を調整する事」、「季節性を考慮する事」が大きなポイントとなります。

売上予測は様々なロジックが考えられますが、予測の結果思うように売上が伸びそうにない場合、マーケティングの打ち手を変えることでどのように売上が変化するかシミュレーション出来ることが必要になります。質的選択モデルを予測モデルに組み込む事で「マーケティング施策を変化させる事による商品の選択確率」がシミュレーションできるようになります。

マーケティング現場の事情と課題

開発推進の承認を得て本格的に製品開発を開始する際、「どれ位の人が買ってくれて、どれ位の利益が見込めるのか」という売上予測は開発のGo/NoGoを決める重要な判断材料となります。しかし、予測の精度は以下の様な「データや予測モデルの粗さ」に起因して低下します(過大推定になるケースが多いと思われます)。

 1.アンケート等で得た購入意向と、実際の購入率には差がある
 2.実際の購買場面における、競合ブランドの影響が考慮されていない
 3.予測モデルが、実際の購買行動(製品の買われ方)をうまく表現できていない
 4.購買パターンの季節性がモデルから落ちている
 5.消費者が等質な購買行動を起こすと仮定している

例えば、コンセプトテストやパッケージテスト等でアンケート回答者から聴収した”購入意向”のTOP1やTOP2集計値を使った予測モデルを見ますが、これは消費者側のコストが伴わない状態での”態度表明”値であり、コストが伴う実際の購買行動とは一致しません。また、競合との比較を行わないアンケートデータと、実際の小売店舗での商品選択環境とでは大きく異なります。

このギャップが問題で、差分がモデル上で調整されていないと予測値に大きな誤差となって返ってきます。例えば、車だと購入意向トップ1、つまり「非常に買いたい」と回答した人の半分程度しか実際に購入しなかったり、家電だと2割を切る事例も見かけます。また、消費者の異質性の問題も厄介です。いくら企業側の都合で「ターゲット消費者」と同一グループで括っても、その実、彼らは様々な選好パターンを持っています。例えば、購買時に最も安いものを買う人、習慣的にいつものブランドを買う人、購買時に一番目に留まったものを買う人、など色々な選択のパターンが存在します。

売上予測モデルとしてよく用いられるのは、耐久消費財の新製品普及メカニズムをモデル化した「バースモデル」、認知→トライアル→リピートという非耐久消費財の購買行動をモデル化して予測に用いる、「パーフィットコリンズモデル(トライアルリピートモデル)」、商品を選択するという質的な選択確率を自社・競合製品に対する消費者の選好の度合によって推定する、「質的選択モデル(選好モデル)」の3つです。また、これらのモデルをベースに作られた、より汎用的なプリテストマーケットシステムとしてTRACKER(Blattberg and Golanty,1978)やASSESSOR(Silk and Urban, 1978)があります。調査会社の予測モデルはおよそ上記いずれかのモデルをベースに、独自のノルム値や質問項目、係数などを加えて作られています。

ここでは、トライアルリピートモデルをベースに、上記の売上予測に関する問題をできるだけケアしながら、FMCG(一般消費財)用の売上予測モデルを作成するロジックを紹介します。同時に、質的選択モデルを組み合わせ、マーケティング施策を変えることでどのように売上が変化するかをシミュレーションする方法を説明します。

1つ注意点ですが、相当精練されたモデルを組んでも、1本の予測式のみで精度の高いモデルを組むことは困難です。重要なのは、予測の方法ではなく予測結果を踏まえどのような判断をするかです。従って、どのような場面で売上予測を行うにしても、

・ロジックの異なる複数パターンのモデルで予測を行い、似たような予測値が得られた時に妥当な予測値とする
・点推定値(例:売上は1億円です)ではなく、区間推定(例:売上は8千万円~1億2千万円程度になるだろう)で考える

という態度で臨むのが、予測値を妥当な範囲に収まらせ、その後の判断を妥当なものにするコツです。モンテカルロシミュレーションという方法を使うと、トライアル率やリピート率などのモデルインプットがこの位の幅で変化した時、予測値はこの位の幅で変化するだろう、という区間推定の予測を実行する事が可能となります。つまり、「モデルインプットに多少の誤差があるであろう事」を折り込み済みで予測を立てる事ができるようになります。

分析のゴール

新製品の鍋用調味料の初年度1年間での売上額を予測し、売上達成の為のマーケティング施策のシミュレーションを行う。

分析のロジック

1.ターゲット規模を推定する
製品の想定ターゲットの潜在市場規模を、フェルミ推定や市場調査(参考:アクセプター・フォーカス)によって推定する。

2.認知率・配架率を推定する
消費者が製品を認知・店頭接触する確率をそれぞれ推定する。

3.トライアル確率・リピート確率を推定する
自社製品がインストアの要因(フェイス率や各種店頭プロモーション)や競合製品の影響を踏まえた上で、どの程度の確率で店頭で選択されるかを推定する。(詳細:ショッパーズ・セレクション

4.シミュレータに変数・補正を加える
上記1~3で算出したターゲット市場規、想定認知率と配下率、購買行動確率、製品の単価、購入数、季節変動の影響を加味し、売上予測シミュレータを作成する。

5.売上をシミュレーションする
認知率や配架率、製品要因など、企業のマーケティングアクションで操作可能な変数を操作し、売上額の予測値を求める。さらに精度を高める場合には、モデルインプットの誤差による予測の誤差を、モンテカルロシミュレーションで調整する。

アウトプットと解釈

トライアルリピートモデルシミュレータを用いて売上の予測値の算出を行います。まず、実際に算出する前に、トライアルリピートモデルは毎月の売上をどのように計算しているかを見てみましょう。

上の図は、上市月~3ヵ月目まで各月における購買者(トライアラー+リピーター)の内訳を示したものです。母数となる製品ターゲットの「市場規模(人数)」は予め算出しておきます(市場規模の推定方法はコチラ)。ではまず、上市月の人数内訳を見てみましょう。上市された最初の月は、以下の3タイプの人で構成されています。

 上市月の市場規模(人数)
  = 商品を認知していない人(非認知者)
   +商品を認知したが、購買していない人(認知・非購買者)
   +商品を認知し、購買した人(トライアラー)

この内訳は、商品の「認知率」・「配架率」・「トライアル率」を元に、初月で市場全体の何割が商品を認知し、更にトライアルしたかを計算することで求められます。購買者(トライアラー)の人数が分かれば、「商品単価」を掛ける事で、売上が算出できる、という仕組みです。

では次に、上市月の人数を元に、2ヵ月目の売上を予測しますが、トライアルリピートモデルでは以下の考え方で計算を行います。

 ●上市月に購買した人(トライアラー)のうち、何割がリピーターになったか?(上図 矢印A)
 ●上市月に購買しなかった人のうち、何割が2ヵ月目に初めてトライアルしてくれたか?(上図 矢印B) 

このように、上市月のそれぞれの状態の人が、2ヵ月目にどの状態になるかを「トライアル率」・「リピート率」・「認知率」から計算することで、2ヵ月目の購買者数が算出され、「商品単価」と掛けて売上を予測できます。さらに翌月の3ヵ月目以降についても、前月のデータから同様に計算が出来ますので、以降は計算を繰り返すことで、各月の売上を計算できる、という仕組みです。


以上のモデルを組み込んだトライアルリピートモデルシミュレータに、「市場規模(人数)」「商品単価」「認知率」「配架率」「トライアル率」「リピート率」を入力することで、以下のような需要予測グラフが描かれ、売上の予測値を算出することが出来ます。ちなみにこのシミュレータはエクセルを用いて実装しています。


今回は1年の売上を予測するというテーマなので、 上市1年後までの売上の推移を見てみましょう。2011年の1月に上市した製品ですが、1年間で右肩上がりに月の売上(棒グラフ)が伸びており、12月単月の売上は約9000万円と読み取れます。これは、製品の認知者が毎月増えると同時に、トライアラー・リピーターもそれぞれ増加するため、購入者数全体が増加し売上が伸び続けている状態です。

以上より、1年間での累積売上予測は約6億5900万円と算出されます。その後の売上の推移については、トライアラー・リピーターの数が次第に収束するため、季節変動により上下はあるものの、毎月1.1億~1.2億円程度を売り上げることがグラフから読み取れます。ただし、この例では、1年間でコンスタントにプロモーションを行い続け、一定の認知拡大がされ続ける前提で予測してます。途中でCMを中断すれば忘却率が上昇し、新規の認知が下がるため、予測値は変動します。実際の分析の場面では、3~6か月程度先までのプロモーションプランから、これら忘却効果や新規認知者比率を加味して予測の精度を上げていきます。


さて、仮にこの商品の初年度の売上目標が10億だったとした場合、どのように売上目標到達のプランを立てれば良いでしょうか。そこで、シミュレータの数値を操作し、ある一定の売上目標に到達するためには、「認知率は何%必要か」「トライアル率とリピート率は、何%を目指せば良いか」など、個別のマーケティング目標値を検討してみましょう。

上図の例では、トライアル率を+2%、リピート率を3%向上させた場合の、シミュレーション結果の比較を示しており、右図では1年の目標売上10億円に到達する計算になります。 このように、売上を目標に到達させるためのマーケティング目標値が決まれば、それを達成する為の具体的なマーケティングアクションを検討する事ができます。(補足:具体的なアクションに落とし込む 「トライアル率を2%上げるには、何をどうすればよいのか?」)

以上のモデリングをベースとして、更に予測精度を向上させる為に、セグメント別にシミュレータを組んで消費者の異質性を考慮した需要予測を行う、地域による補正を加えるなどのオプションを適宜追加する事も可能です。また、「モンテカルロシミュレーション」を実施すれば、モデルインプットの誤差をケアして区間推定の売上予測を行う事ができます。




<補足:具体的なアクションに落とし込む ~トライアル率を2%上げるには、何をどうすればよいのか>

具体的なマーケティングアクションを検討する際に、「では、トライアル率を2%上げるには何をどうすればよいのか?」といった疑問が生じると思います。トライアル意向やリピート意向には、パッケージデザイン、ネーミングなどの製品要件、陳列用什器やPOP、フェイス率などの店頭施策、価格、ブランドイメージ、ブランドとの接触量、競合の競争力など広範なマーケティング戦略要因が影響します。これら要因の中で、「どういう要因がブランドの選択行動に影響を及ぼすかを特定し、どのような施策を打てばトライアル率やリピート率を何%上げる事ができるか」を具体的に推定する方法として、ショッパーズ・セレクションが挙げられます。この手法はマーケティングリサーチで得られるデータを使って、質的選択モデルを実行します。トライアルリピートモデルと組み合わせる事により、上記のような「売上予測+マーケティング施策レベルでの最適化シミュレーション」を行う事が可能となります。

また、上市が直近に迫っている、もしくはすでに上市後である場合、戦略のマスタープランを大きく変えるのは難しくなります。その場合は以下のような手法を使い、「コンタクトポイントにおけるコミュニケーションを操作する事で購買意向を向上させる」というアプローチが考えられます。それぞれ、購買意向や購買行動を喚起させる為に最適なコンタクトポイント戦略を導出する為の手法です。

 ●最適なコンタクトポイントの選択と編成を行うコンタクトポイントフォーメーションデザイナー
 ●コンタクトポイントへの予算配分を変えるコンタクトポイント・バジェットシミュレータ
 ●コンタクトポイントでのコミュニケーションを最適化する(ブランドコミュニケーションポートフォリオ

ブランド選択モデル「消費者に店頭で選ばれる商品になる」

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