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味覚最適化法

食品、飲料製品開発の為の市場調査「期待する味覚を実現する」

消費者が期待する味を実現できているか?どうやって近づけるか?

Q 自社製品の製品改良とリポジショニングの方向性を探っています。どのようにして消費者の求めている味覚を把握し、製品開発に落とし込んでいくのが良いでしょうか?

飲料メーカーのマーケティングをしています。「消費者が求める理想の味・期待する味」をベンチマークとして、「自社製品がその味をきちんと実現できているのか?」、「どうすればより期待に近い味を出せるのか?」という課題があります。よい分析方法はないですか?

A ターゲット消費者が求めている味覚を把握した上で、自社製品は期待と実際の味にどれだけギャップがあるのか、ギャップを埋めて期待される味のイメージを実現するためには、どのような呈味を持った製品を開発すればよいかをセットで分析し、開発要件を定めましょう。

まずその製品がターゲットとする飲用シーンを定めます。次にその飲用シーンにおいて消費者が求めている味のイメージ(期待される味覚)を測り、期待と実際の味にどの程度の不一致があるのかを解析します。不一致の程度が大きければ、呈味開発での優先対応事項となりますので、期待する味覚を実現させるには、どのような味の要素をどのくらい効かせればよいかを見つける解析も合わせて行います。

マーケティング現場の事情と課題

FMCG一般、特に飲料や食品の購買動機は、味や香りのイメージによる部分が大きい事が知られています。消費者は「飲んでこんな気分・感じになりたい」という感覚的なニーズを満たすために、それに合ったイメージを持つ製品を購入する、という事です。その為、食品・飲料業界では、宣伝広告や販促物によるイメージコミュニケーションに大量のコストがかけられます。

トライアル購買時(初回購買時)には、消費者はそれらプロモーションから何らかの味のイメージを期待して製品を購入します。しかしコンセプトやパッケージ、ネーミングから受け取る味のイメージと、実際に感じた味に不一致があると、消費者は”期待に対して十分な中身が伴っていない”と判断しますから、不満足につながります。これが2回目以降のリピート購買を妨げる大きな障害となります。

また、飲食メーカーや食品メーカーでは、よく飲用・利用シーンによるセグメンテーションを実施しています。これは、飲用シーンや状況、タイミングによって飲料に求められる味覚のイメージや飲み方が異なる為、STP戦略をシーンごとに展開する必要があるからです。

そこで、ここでは

 1.消費者は「どのようなシーンで、どのような味のイメージを期待して製品を購入するのか」を把握
 2.「期待される味覚に対して、製品の実際の味がどの程度近いのか(遠いのか)」を測定
 3.期待される味のイメージを実現する為には、「具体的にどの味の要素をどれ位効かせた製品を開発すればよいか」を解析

する手法を紹介します。このステップで分析を行うことにより、単なる味覚のベンチマークやパフォーマンス評価に留まらず、マーケティング視点で発見した自社の強み弱みを、効果的に商品開発・呈味開発での改善へ直結させる事が可能となります。

分析のゴール

ターゲット飲用シーンにおいて消費者が求める味覚のイメージを特定し、そのイメージについて期待と実際の味のギャップを把握。ギャップが大きいイメージについては、具体的にどのような呈味を開発すればよいのか求める。

分析のロジック

1.製品の飲用シーン特定
製品のターゲットと、想定される飲用シーンを定義する。

2.味覚イメージの特定と重要度の推定
市場調査を行い、製品利用意向が高い飲用シーンにおいて消費者に求められている味のイメージと、その期待の大きさ(重要度)を計算する。

3.期待する味と実際の味のギャップの発見
製品名やコンセプト、ブランド等から期待される味と、ブラインドテストで測定した実際の味のスコアを同一スケールに標準化して比較し、消費者が期待する味と実際の味のギャップを計算する。

4.味のギャップを埋める呈味開発への示唆
期待と実際の味のギャップが大きいイメージについて、期待される味のイメージを実現するためには、具体的にどの味覚要素をどれくらい効かせた製品開発をすればよいか、解析により求める。

アウトプットの解釈

まず、製品がターゲットとする「消費者」と「飲用シーン」を定めます。製品開発前に既にターゲティングが行われていることが望ましいですが、ターゲット消費者が明確でない場合、「製品の受容性が高い消費者」を解析により抽出し、ターゲットセグメントとして設定します。(製品ありきのターゲティング手法はこちら

ターゲットとなる消費者を設定したら、そのターゲットの「製品利用意向が高い飲用シーン」を解析により把握します。この例では、「自宅で食事中」というシーンの利用意向が高いため、これをターゲット飲用シーンと設定して話を進めます。


次に、消費者が飲用シーンに求める味のイメージとその重要度を把握します。この例では、様々な味のイメージを「1.渇きを癒しリフレッシュ」「2.口当たりがよく喉ごしがスムーズ」など4つの因子にまとめ、重要度を算出しています。分析の結果、「自宅で食事中」という飲用シーンにおいては「リフレッシュできる」「ゴクゴク飲める」といった味のイメージの重要度が高いことがわかりました。表では、重要度が高い順に左から列記しています。


飲用シーンにおいて重要な味のイメージに関して、製品名やコンセプトなどから想起される「期待する味のイメージ」と、「実際の味(ブラインドテストの結果)」を比較し、期待する味のイメージと実際の味にギャップがある味覚項目を探索します

この例では、「リフレッシュできる」「渇きを癒してくれる」の項目は、重要度が高いにもかかわらず、期待する味より実際の味が低く評価されており、優先して対応すべき“味のギャップ“があると考えられます。一方、「口当たりが良い」「喉ごしがスムーズ」の項目は、期待する味のイメージより実際の味が上まわっており、現状の味の評価を維持することが求められます。


最後に、期待と実際のギャップが大きい味覚項目について、味のイメージを期待値に近づける為に強める(又は、弱める)必要のある具体的な味覚要素を特定します。上記アウトプットでは、それぞれの味覚要素(行)が味のイメージ(列)を実現させるためにどの程度の寄与があるのか、という影響力を数値化して表しています。

表を読むと、期待と実際の味にギャップがあった「リフレッシュできる」という味のイメージを感じさせるためには、「喉を通り過ぎる時の炭酸の刺激」 「クリアな味」といった味覚要素の影響が強く、「渇きを癒してくれる」という味のイメージには「喉を通りすぎる時の酸味」「口に含んだ時の炭酸の刺激」といった味覚要素の影響が強いと読み取ることができるため、これらの味覚要素を強めた製品開発を行うことで、味のギャップを埋めることができると考えられます。

このような影響力を測る解析手法としては重回帰分析が一般的ですが、味覚データを扱う場合、項目間で意味が重複する部分が多く、通常の重回帰では多重共線の問題が多発する事が予想されます。多重共線のある状態で結果を読むと誤った解釈になる恐れがありますので、PLS回帰など多重共線を回避しながら影響力を算出する事ができる解析手法を適用する必要があります。

このように、「味覚最適化法」では、ターゲット消費者の利用意向の高い飲用シーンにおいて、期待される味のイメージと実際の味のギャップを特定し、ギャップを埋める詳細な呈味実現のための、食品・飲料の製品開発の具体的な指針を導くことが出来ます。

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