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戦略ごっこ:想定読者は?どんな目的、課題解決に使える?

多くの反響を頂いている「戦略ごっこ―マーケティング以前の問題」ですが、今回は、本書の想定読者についてお話しておきたいと思います。

本というのは、実際読んでみて初めて自分に合うのか、価値になるのかが分かります。思いがけない良書との出会いや、予想外の気づきがあるのも本の魅力ですが、やはり読むのには時間がかかりますから、なるべく事前に「自分とマッチするか」「読む価値がありそうか」を知っておきたいところです。ビジネス書などはことさらそうですね。私自身も、イチ読者として「期待していた内容と違う、自分は想定読者ではなかった」ということが結構ありました。そういう時は、やはりミスマッチを防ぐために、

  • どんな本なのか?
  • 想定読者は誰で、どんな目的/課題解決に使えるのか?
  • 逆に、誰向きではないのか?


くらいは検索すれば分かるようにしておいて欲しい、と思うわけです。特に本書は450ページ以上あるため、その辺りを明快にしておいた方がよいだろうということで、今回まとめることにしました。本書の中でも書いていますが、こういう情報は発売前に先出ししておかないと意味がないですしね(なので、共感して頂けたら拡散してもらえると助かります)。

本書の想定読者

ざっくりと「どんな本なのか?」については前回の記事で書いていますので、そちらをご覧いただければと思います。本書は次のような方をターゲット読者として想定しています。

<本書が特に役立つ人、役立つ場面>

  • 成熟市場の消費財、サービス財、耐久財のマーケターや商品開発者
  • 売上の踊り場に直面している経営幹部
  • 小さなブランドを成長させるミッションを担うブランドマネジャー
  • それを支援するプランナーやコンサルタント、セールス、クリエイターなど
  • マーケティング入門者、初学者

この本は誰のどんな課題を解決するのか――。成熟市場のマーケティングに関わる全てのビジネスパーソンに知ってほしいエビデンスを集めたつもりですが、最も役立つのは「小さな事業やブランドを大きく成長させるミッションを担う担当者やマーケター」「売上の踊り場に直面している経営者やブランドマネジャー」だと思います。次いで商品やサービスの開発者、支援する側の広告代理店のプランナーやコンサルタントという順になります。

成長の踊り場に陥る、もしくはいつまでも脱却できないのは、今までのやり方にどこか問題があるからです。別に自己流や経験則が悪いと言っているわけではありません。成長の踊り場に来たということは、「ここまでは今までのやり方でよかった、ここからはそれでは不十分だ」というだけのことです。それ以上でも以下でもありません。実際、エビデンスだけでは0→1はできません。しかし自己流だけでは1→10は難しいでしょう。本書は2や3あたりで行き詰まったとき、そこから10を目指そう、あるいは10から100を目指そうというときに最も役立つのではないかと思います。

「今のやり方では限界なのではないか」「かといって、何をどう変えていけばいいのだろうか」、そうした疑問に圧倒されている方に新しい視点を提供し、成長の踊り場から脱却するアクションの土台となること─それがエビデンス思考の真価なのではないかと思います。

FAQ①「マーケティング理論や戦略にあまり詳しくないけど大丈夫?」

マーケティングの経験で言えば、初学者の方、新卒やジョブローテーションでマーケティング部門に配属になったばかりの方、既存のマーケティングに染まっていない学生の方なども本書に向いていると思います。意外に思われるかもしれませんが、マーケティングの当たり前を見直す必要があるのは、長年の思い込みにより事実誤認しているからです。最初からファクトやエビデンスに基づいて考えることができるなら、それに越したことはありません。もちろん、さまざまな理論を学び色々な経験をしてきた上で、「結局どうすればいいの? 自分の業界や商材だとどう考えればいいの?」と悩まれている上級者には言わずもがな役に立つと思います。

FAQ②「どんなカテゴリーに当てはまる?小さなブランドでも役に立つ?」

本書は、株式会社コレクシアのVIPクライアント向けリポートと、筆者が統括するコンサルティング部門のトレーニング資料をベースに、300報以上の先行研究レビューを追加して書籍用にまとめたものです。ですからどうしても当社のクライアントの業界、つまり成熟市場の消費財やサービス財、耐久財向けのエビデンスが多くなっています。また、大きなブランド(e.g., 成熟ブランド)と小さなブランド(e.g., 新商品)では当てはまるエビデンスが変わる場合がありますが、そうした場合分けも併記しているので、新商品の担当者から主力商品の責任者まで幅広くご活用いただけると思います。

FAQ③「事業の成長フェーズ的に、いつから読み始めるのがベスト?」

いつからエビデンスを取り入れるべきかで言うと、早い段階で理解しておくほど後のプラスが大きいと思います。商品のローンチ前、つまりアイデア出しやコンセプトワークに直接当てはまるエビデンス(i.e., “こうすれば絶対うまくいく”)というのはありませんが、0→1の後にはいずれ1→10、10→100を迎えます。そして、エビデンスは基本的に先行進取するものです。大きなブランドになってから、「大きなブランドになるためのエビデンス」を探すのではありません。小さなブランドが大きなブランドになるために、「ブランドはどのように成長するのか」「消費者はどのように商品やサービスを選ぶのか」「大きく成長するブランドにはどのような共通点や規則性があるのか」などを前もって知っておくべきなのです(もちろん、大きなブランドがさらに成長するためのエビデンスは新しく学ぶ必要があります)

ちなみに0→1においては、エビデンスというより「ブランドやカテゴリーを再解釈する」という視点が有効かもしれません。こちらは、前著『“未”顧客理解』で詳しく解説しています。

FAQ④「どんなレベルのエビデンスが載っているの?」

本書では、論文などで公にされているエビデンスを集め、メタ的な批判を加えることで「一般的に、事業成長について何がどこまで分かっているのか」を考察しています。筆者自身が特定ブランドのデータを集め、ゼロから実証する本ではありません(それは本業のほうでやっています)。

エビデンスというと、いわゆるエビデンスピラミッドを想像される方もいるかもしれません。本来、「エビデンス」というためには入念な要因統制(興味のある要因以外の影響が一定になるようにコントロールすること。例えば、広告の効果を知りたいなら、広告以外の影響は同じにする)が求められるわけですが、本書ではRCTを行ったかどうかでふるいにかけることはしません。もちろんRCTやそのメタ分析がある場合は積極的に紹介しますが、マーケティングも「再現性の危機」の問題と無関係ではなく、むしろ実験環境で成立した傾向が現実の市場では再現されないというケースも少なくありません。従って本書では、要因統制の程度には幅があることは認めつつも、現実の市場で実際に何度も観察されている規則性を中心に紹介しています。

また、アカデミックな研究かそうではないかで分けることもしていません。業界団体や調査会社などのリポートでも、大規模データやシングルソースデータに基づく実証研究は積極的に採用しています。逆に、トップジャーナルに載っているような理論でも、概念中心の研究は最小限の言及にとどめ、深くは掘り下げていません。

FAQ⑤「電子書籍版はある?印刷版とどちらがおすすめ?」

はい、電子書籍版もご用意があります。どちらがおすすめかは利用シーン次第ですが、筆者のおススメは印刷版(本)です。権利の関係で、「本には載せられるが電子書籍版には載せられない」というコンテンツがあるからです。とはいえ、それは読者とのコミュニケーションの一貫として入れた“ウィット”の話なので、「ビジネスやマーケティングの当たり前を事実ベースで見直す」という本書のコンセプトを損ねるような違いではありません。印刷版と電子書籍版、どちらを読んで頂いても得られる学びは同じです。

もう1つ、今回2色カラーで刷っているので、グラフなどは印刷版の方がみやすいかもしれません。あとこれは読者のUXというより著者のこだわり的なことですが、今回、色校を重ね、表紙カラーの発色や文字の見えやすさに苦心しました。なので、ぜひ印刷版で見て欲しいという思いはあります。

本書が不向きなケース

本書で紹介するファクトやエビデンスは「全ての市場に当てはまる」わけでも「読者が置かれた状況で必ずうまくいく」わけでもありません。例えば、イノベーション性が極めて高い新しい市場や、今までにない新規のビジネスモデルなどには当てはまらない場合があります。そうしたテーマの性質上、データがないからです。

次に、本書は事業成長に取り組むビジネスパーソンに向けた実用書です。「実務に役立つかどうか」を唯一の基準として情報を主観的に取捨選択しているので、アカデミックな議論の深さや厳密さ、公正さなどを求める方には物足りないかもしれません。また先述の通り、強いエビデンスを主張するためには綿密な要因統制が求められるわけですが、本書には、厳密に言えばエビデンス未満の話(e.g., 他の条件が同じだと仮定した場合の話)も含まれます。しかし筆者は、統計的統制あるいはそれに近い操作を試み、Apple-to-Appleの比較になっていれば実務では十分役立つと考えています。それでは信用できない、不十分だ、という方には本書は不向きです。

また、これは考え方の問題ですが、原則より例外が気になる人(“必ずしもそうとは言い切れないのでは?”)には向いていません。統計学には「全てのモデルは間違っているが、いくつか有用なものもある」という言葉があります(Box, 1979)。本書で紹介する事業成長の規則性も、厳密に言えば「役に立つ近似」でしかありません。境界条件や場合分けが既知の場合はできる限り併記していますが、全ての例外をカバーしているわけではありません。つまり「必ずしもそう言い切れないものばかり」です。そうした折り合いがつけられない方には向いていないと思います。例えばあなたが病院で薬をもらうとき、もし「その薬が効かない場合もありますよね、それなら飲みたくありません」と言ったら、恐らく医者は「じゃあ飲まなくていいです」と言うと思います。それと同じことです。

執筆のスタイルと意図

執筆のスタイルとしては、なるべくファクトを主、それに基づく筆者の意見を従として併記することを心がけています。逆に、筆者の意見が中心の話は主にコラムで紹介しています。ビジネス書としては文中引用が多く、とっつきにくさがあるかもしれませんが、事実と意見を分けた上で、ひと続きの読み物としても楽しめることを意識して構成しています。理想的には、事実に基づいて読者なりの考えを持っていただき、筆者の解釈とどこまで同じで、どこから違うのかという対話につながればうれしく思います。

Box, G. E. (1979). Robustness in the strategy of scientific model building. In R.L. Launer & G.N. Wilkinson (Eds.), Robustness in statistics (pp. 201-236). Academic Press.
https://doi.org/10.1016/B978-0-12-438150-6.50018-2

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