次は、人材紹介会社が運営する転職サイトの事例です。このサービスの特徴は、企業とユーザーの相性をスコアリングしてくれることです。その相性スコアに基づいて、価値観や働き方がマッチする企業のリストを利用者にDMで届けます。登場人物は30代の会社員です。
[1]オルタネイトモデルを作る
昼の休憩時間にふと、「ステップアップのための転職もありかな」という思いが頭に浮かんだようです。このエピソードからオルタネイトモデルを書き起こすと、図表5-5のようになるでしょう。いろいろな企業を調べてはいるようですが、応募には至らないようです。サービス提供者である人材紹介会社からすると応募が最初のコンバージョンとなるため、こうした未顧客に対して何かしらの行動喚起を行いたいところです。
[2]随伴性を把握する
行動の前後の文脈を確認します。失敗しない転職先を見つけるために、いろいろな企業を調べているようです。職場の雰囲気や実際に働いている人のインタビューなどを多く読んでいることから、「社員の顔や声が分かると安心できる」という思いがありそうです。それが報酬となって、さらにいろいろな会社の様子を見ようとサイトを回遊しているようですが、応募には至っていません。「結局、自分が一緒に働く人との人間関係次第だから、入社してみないと分からない」という抑圧があるからです(図表5-6)。
[3]ベネフィットを再解釈する
サイトを運営している人材紹介会社としては、こうした抑圧を減らすことで応募率を高めていきたいところです。サービスの特徴をどう再解釈すれば抑圧を減らすベネフィットを提案できるでしょうか。この転職サイトでは、掲載企業に働き方の価値観やワークライフバランスなどに関するアンケートを実施しており、利用者のアンケートと合わせて相性をスコアリングしてくれるそうです。そのスコアに基づいて、価値観や働き方がマッチする企業のリストが毎週利用者にDMで届きます。少し複雑なシステムですね。どういう伝え方をすれば魅力的なサービスとして映るでしょうか。
ここで、「一緒に働く人のエピソード」「顔と声が分かると安心できる」
「自分が一緒に働く人との人間関係次第」といった部分に着目すると、企業や仕事内容ではなく人との相性に関心を寄せていることが分かります。この未顧客は、転職に関して「一緒に働く人で職場を選ぶ」という合理を持っているのかもしれません。情報検索も人を軸に実施していることが見て取れますね。
「価値観や働き方が合う『企業』が見つかる」
という言い方ではなく、
「価値観や働き方が合う『上司や同僚』が見つかる」
と言った方が、よりサービスの報酬感が高まるでしょう。
こうした考察から、マッチングやスコアリングを押すのではなく、「自分の価値観と合う上司やチームから企業を逆引きできるので、働き方の相性で失敗しない」というベネフィットの切り出し方が思い浮かびます。また、DMで転職先候補の企業リストを送るのではなく、上司や同僚のインタビューなどを自分で調べやすいようなUXにしたり、実際に会って話を聞けるような仕組みにしたりした方が良いかもしれません(図表5–7)。
[4]ブランドを再構築する
再解釈したベネフィット(自分の価値観と合う上司やチームから企業を逆引きできるので、働き方の相性で失敗しない)を組み込んだオルタネイトモデルは図表5-8のようになります。
元のオルタネイトモデル(図表5-5)では、
転職=「自分に合うかどうかは入社してみないと分からないゲーム」
と認識されていましたが、そうした認識を持った未顧客に対して、「自分の価値観と合う上司やチームから企業を逆引きできるので、働き方の相性で失敗しない」と提案することで、
転職=「自分に合う同僚や上司を入社前に選ぶゲーム」
と気付ける構造になっています。この未顧客は「一緒に働く人で転職先を選ぶ」という合理を持っていますから、その気付きが「この会社だ!と確信できる職場にたどり着きたい」という欲求を満たし、応募を喚起することが期待できます。