マーケティングリサーチについての情報発信を早くから行っており、今もfacebookでの情報発信を活発に続けられている、「マーケティングリサーチの寺子屋」の鈴木敦詞氏より、「マーケティングリサーチの基礎」というテーマで全4回で連載をスタートいたします。初回は「企画を考える」ための考え方・取り組み方をご紹介します。
マーケティングリサーチ(データ分析)の企画とは?
「企画ができれば、プロジェクトの半分が終わったようなもの」と言われることがあります。一方で、企画がしっかりしていないと、プロジェクトは最後まで迷走を続けることになるといっても過言ではありません。たとえば、プロジェクトの報告をした際に、つぎのように言われたことはないでしょうか。
「こんなことは、もうわかっていた」
「知りたいのは、こういうことじゃない」
「結果が当たり前すぎて、使えない」。
いずれも、リサーチ担当者にとっては辛い言葉ですが、企画の段階で、しっかりとした準備ができていなかった結果ともいえます。
では、マーケティングリサーチの企画とは、どのようなものなのでしょうか。実際のところ、「企画書」と言いながら、その内容は「設計書」に過ぎないというペーパーも少なからず見かけます。つまり、企画の重要性をあまり理解していない、あるいは企画そのものを理解していない、ということなのでしょう。
そこで、今回はマーケティングリサーチの企画について考えていこうと思います。ここでは、マーケティングリサーチと言っていますが、ビッグデータやソーシャルリスニングのデータ分析の企画においても共通点は多いです。
基本に立ち返って、マーケティングリサーチ(&データ分析)の企画は何を目的に作られるものなのか、を考えてみます。まず、「企画」なのですから、なぜこのプロジェクトを行わなければならないかを理解してもらうためのものです。そして、プロジェクトをどのように行うかの仕様書でもあります。先ほど、「企画書といいながら、設計書でしかない」と言ったペーパーには、仕様=設計は書いてあっても、「なぜ」に当たる部分が抜け落ちています。どのような背景で、どのような課題に直面していて、どのようなマーケティング目標にあるから、このようなリサーチプロジェクトが必要なのだ、という部分が欠落しているのです。
そこで、今回はマーケティングリサーチの企画について考えていくのですが、はじめにマーケティングリサーチの企画の大きな流れを整理しておきましょう。
・背景と課題、マーケティング目標の理解
・リサーチ目的の設定
・リサーチ課題へのブレイクダウン
・リサーチ設計
このように、リサーチ設計を行う前に、理解したり、決めておくべきことがあるのです。
テーマ理解の重要性
お断りしておきますが、担当する業界が、どのような業界なのかを理解しておくことは大前提です。とくに、外部のリサーチ会社に所属するリサーチャーでは、この点に注意が必要です。このことを前提として、まず取り組まなければならないのはテーマの理解です。具体的には、マーケティング課題や目標の理解、さらにはプロジェクト状況の理解です。
たとえばクライアント(ここでは、社内クライアントも含めて「クライアント」と言っています)から、「今度、商品Xのコンセプト評価をしたいから、考えておいてね」と言われたとします。さて、あなたは、どのように考えていくでしょうか?これまでの経験や他の人が実施したコンセプト評価テストの企画書や調査票を元に、企画していく人も少なくないでしょう。あるいは、リサーチ課題をメモしたものを渡されているかもしれません。しかし、一言で「コンセプト評価テスト」といっても、目標や現在の状況を理解せずに、設計することはできないはずです。
たとえば、マーケティング目標とは、つぎのような点です。
・まったく新しい市場を創造したいのか
・既存のマーケットに新規参入したいのか
・既存商品をリニューアルしたいのか
・商品ラインを拡張したいのか
・競合からシェアを奪いたいのか
などなどです。もちろん、この背景には課題があります。売上が落ちている、競合の勢いが増している、商品の認知や配下が落ちている、というようなものです。そして、これらの課題をクリアするために、新たなマーケティング目標が設定されるのですが、この目標が何かによって、リサーチの課題、その優先順位、調査対象(データ分析であれば、どのようなデータを使うのか)が、異なるでしょう。
また、ここでいう「コンセプト」も、どのようなものなのでしょう。たとえば、社内ブレストを経た程度の段階なのか、オープンデータなどによるマーケット分析が終了した段階なのか、グルインなどで消費者のニーズも確認した段階なのか、などです。どの段階でのコンセプトなのかによって、つぎのステップで行うリサーチの課題や設計は異なってくるはずです。
繰り返しになりますが、このようにリサーチの背景の理解なしでは、具体的な設計はできないはずです。では、どのような情報をクライアントと共有しておくべきなのでしょう。
まずは、先にみたようなマーケティングの課題と目標です。この点を明らかにしておくことが、すべての始まりです。そして、現在のステップの前後の状況を確認しておくことも必要です。これまで何をしてきて、何が明らかになっているのか、そこで何が課題になっているのか。調査結果をどのように活用しようとしていて、今後はどのようなステップに進むのか。また、明確に文章にできないまでも、クライアントが日々考えていることがあるはずなので、その点を引き出しておくことも大切です。マーケットをどのように捉えているのか、生活者はどうか、競合は、流通は、その中で自社は、といったようにマーケティングのフレームに沿って、整理をしておくと、つぎのステップで必要になる仮説づくりに役立ちます。
そして、これらの議論の中で、すでに明らかになっていることを整理しておくことも重要なポイントです。得てして陥りがちなのは、リサーチが終わった後で「そんなことは、すでにわかっていた」と言われることです。企画の段階で、すでに明らかになっていることの切り分けをしておけば、このような状況に陥ることは無くなるはずです。
リサーチ(データ分析)目的の設定と課題へのブレイクダウン
プロジェクトの背景やマーケティング課題、目標を理解し、クライアントの問題意識、迷い、すでにわかっていることを明らかにできたら、つぎはリサーチ(データ分析)自体の目的設定と調査課題へのブレイクダウンになります。
マーケティング目標を達成するために、いま明らかにしなければならない課題は何か。そして、その課題解決のためにリサーチで明らかにする、あるいは結論づけるテーマは何か、それがリサーチ目的になります。そして、ここで「仮説」が重要になります。
マーケティング目標を達成するために明らかにしなければならない課題、それはひとつに限りません。さまざまな要因や要素、それに伴う解決策が考えられるはずです。リサーチの目的のひとつは、ここで出された様々な仮説について検証することにあります(一方で、仮説を出すための調査もあります。この点は、次回で考えていきます)。ただし、羅列的にあげられた仮説をすべて検証するのは効率がよくありませんし、対象者への負担も大きくなります。ここで、マーケティングフレームやすでに明らかになっている知見、優先順位などを元に、今回のリサーチで明らかにするべきテーマに絞り込むことも大切です。
さきほどの商品Xの例では、コンセプト自体が仮説ですし、いまの課題はこのコンセプトで開発プロセスに入っていてもいいのか、ということです。ですから、リサーチ目的は、「社内で検討された商品Xのコンセプトについて、消費者の受容性を確認し、あわせて今後の開発過程に資する情報を得る」といったものになります(あくまで、ひとつの例です)。
しかし、これは大きな方向性を示したものにすぎず、なにを明らかにしていかなければならないのか、結論づけなければならないのかが、明確になっていません。そこで、リサーチ課題へのブレイクダウンが必要になります。つまり、リサーチ目的(先ほどの例では、受容性判断と開発に資する情報の取得)のためには、何が明らかになればよいかについて、整理することです。
このときに重要になるのが、アウトプット=調査結果の活用イメージです。今回のリサーチから得られた結果を、今後どのように使おうとしているのか、この点がとても重要になります。調査結果の活用イメージができていないと、単に数字としてのデータを羅列するアウトプットになってしまい、「結果はわかったけど、使えない」リサーチになってしまうでしょう。極論してしまうと、「調査結果としてのデータ」それ自体が必要なのではなく、「結果をどのようなアクションに繋げることができるのか」が求められている、と言えます。
ふたたび商品Xを例とすると、「コンセプトが受け入れられた、あるいは受け入れられなかった」という結果だけでは、つぎのステップに繋げることができません。コンセプトのどこが問題なのかという課題を明らかにすること、どのような人に受け入れられているのかというターゲットとの整合性を確認すること、さらには購入意向で受容性の強さを確認することも必要かもしれません。これらの具体的な確認事項を、リサーチ課題としてクライアントと共有、確認することが大切です。
もし、クライアントから提示されたものが具体的なリサーチ設計だとしても、これまで見てきたようなリサーチの背景、マーケティング課題・目標、リサーチ目的、リサーチ課題にまで立ち返って確認することは欠かせません。再三繰り返した通り、これらの理解がなければ、具体的な設計はできないからです。リサーチの設計と企画は異なる、ということは、しっかりと理解しておかなければなりません。
今回は、リサーチにおける企画の大切さを確認し、具体的な流れについても考えてみました。ここまでできて、はじめてリサーチの具体的な設計の段階に進みます。次回は、まず設計の前提となる調査デザインの3つのパターンについて確認し、具体的な設計の流れについて考えてみます。
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鈴木 敦詞 (すずき あつし)
<略歴>
りんく考房代表。マーケティングエージェンシーや調査会社を経て、2006年に独立し現在に至る。マーケティングリサーチの研修、企画・分析を手がける傍ら、「マーケティングリサーチの寺子屋」で情報を発信する。日本マーケティングリサーチ協会個人賛助会員。2009年多摩大学大学院修士課程(経営情報学)修了。
鈴木敦詞氏の記事一覧
マーケティングリサーチの寺子屋 インタビュー 第1回 前編
マーケティングリサーチの寺子屋 インタビュー 第1回 後編
マーケティングリサーチの寺子屋 インタビュー 第2回 前編
マーケティングリサーチの寺子屋 インタビュー 第2回 後編
マーケティングリサーチの基礎 第1回 企画を考える
マーケティングリサーチの基礎 第2回 リサーチデザインを考える
マーケティングリサーチの基礎 第3回 分析を考える
マーケティングリサーチの基礎 第4回 報告書を考える