ホワイトスペースの見つけ方とポジショニング戦略の立て方
市場の空白へのポジショニング
Q よく”ホワイトスペースを見つける”という表現を使いますが、具体的には何をどのように分析すれば見つかりますか?また、ホワイトスペースを見つけてそれからどうすればよいのでしょうか?
競合が多く、すでに自社も展開している旅行予約サイト市場に、独自の新サービスを投入してシェア拡大を目指すことになりました。既存のサービスが開拓できていない”ホワイトスペース”を見つけて開拓したいと考えているのですが、どのように調査・分析を進めればよいのでしょうか。また、ホワイトスペースを見つけた後、それをどのように具体的なサービスのローンチに活用していけばよいのでしょうか?
A 自社競合含め既存サービスが現在満たせずにいて、かつターゲットにとって重要な「ニーズ」がホワイトスペースと言えます。ホワイトスペースが見つかれば、そこに自社製品を最適にポジショニングする為に必要な分析をしましょう。
まずターゲット消費者を設定する必要があります(ターゲット設定手法はコチラ)。次に既存のサービスがターゲットのどのようなニーズを満たしており、どのようなニーズが満たされていないか、市場環境調査により把握します。その際<顧客・競合・自社>という3C分析の枠組みが役立ちます。その上で、ターゲットにとって重要でかつ既存サービスが満たせていないニーズが”ホワイトスペース”と考えることができます。ホワイトスペースが見つかれば、ニーズに対して訴求力の強い自社製品の差別化ポイントを分析により見つけ、ポジショニングしましょう。
マーケティング現場の事情と課題
競争の激しい市場で競合と類似の製品で勝負をするのではなく、未だ充足されていないもしくは、充足の程度が低い市場の隙間を見つけ(無い場合はそのようなサブカテゴリーを創造し)そこでシェアを取る、というのがホワイトスペースの本質的なアイディアです。
ここで”市場”を”ニーズ”と読み替え、”シェアを取る”を”ターゲットのマインドシェアを取る”と読み替えると、具体的な分析ロジックに落とし込むことが出来ます。つまり、現在の市場で充足率が低くかつ、ターゲット消費者にとって重要なニーズを探索して、そこに自社ブランドのベネフィットの内、訴求力の強いものをキーメッセージとしてプロモーションします。そうすると、競争が激しくないスペースで先発ブランドとして自社の強み・独自性を活かすことが出来るので、後続ブランドへ参入障壁を築きやすくなり、ブランドレレバンスを確立しやすくなります。
さて、ホワイトスペースを軸にした戦略立案において、必ずしも競合他社が”存在しない”領域を見つける必要があるかというとそうではありません。ターゲットがその製品を買いたい・買うべきだと確信するに足る説得力を持ったイメージやメッセージによって、ターゲットのマインドの中にその製品を位置づける事を「ポジショニング」と言いますが、ホワイトスペースとポジショニング戦略には切り離せない関係性があります。競合よりも優位性のある差別化ポイントを、自社が打ち出す事が可能な「ポジショニングの機会」を見つける事が、現実的なホワイトスペース探索となるからです。
ここでは、3C(顧客、競合、自社)の市場環境分析を基に市場のホワイトスペースを探索し、自社製品のポジショニングの機会を見つけるまでのロジックと手法を紹介します。ちなみに、日本のような成熟市場では多くの産業で重要なニーズはほぼ既に充足されており、ホワイトスペースを見つける事が困難な場合も多くあります。この場合はホワイトスペースを「見つける」のではなく「創る」戦略を採る事になります。
分析のゴール
現在の市場で充足率が低いニーズを探索し、自社製品のベネフィットの内、そのニーズに対して訴求力の強い差別化ポイントをポジショニングする。
分析のロジック
1.自社製品のベネフィットを抽出する場環境調査
ワークショップ等を通じて、自社製品の持つ様々なベネフィット(ターゲット消費者に対する価値)を抽出する。
2.ニーズの需要規模と重要度を算出する
市場調査を行い、ターゲットが持つニーズの種類とその需要規模、ターゲットにとっての重要度をリサーチによって把握する。
3.ニーズ充足率のベンチマークとホワイトスペース探索
2で抽出したニーズに対する、競合製品と自社製品のニーズ充足率をベンチマークし、”ターゲットにとって重要なのに満たされていないニーズ”を見つける。
4.自社製品の差別化ポイントの探索
1で抽出した自社製品のベネフィットの内、3で探索したホワイトスペースのニーズに対して訴求力の強いベネフィットを見つけ、自社製品のポジショニングの為のキーメッセージ候補とする。 ※2~4は同一調査内で実施可能
アウトプットの解釈
まず、『顧客分析』として、ターゲット消費者を設定し、ターゲット消費者がもつニーズの種類、規模、重要度を把握します(ターゲット消費者の設定手法はコチラ)。この例では、ターゲット消費者のニーズとして「ホテルやツアーのクチコミの評価が見たい」、「自分にあったプランを提案して欲しい」など5つのニーズを抽出し、ニーズごとにその需要規模と重要度を算出しています(上表は重要度の高い順に列挙)。
次に『競合分析』として、既存のサービスがターゲット消費者のニーズをどの程度満たしているかを把握します。例では、その充足の度合いを分析した結果を“充足率ベンチマーク表”にまとめています。表を見ると、「自分にあったプランを提案して欲しい」というニーズは、現在の自社・競合サービスがニーズを満たしきれておらず、かつニーズ重要度が高いため、ポテンシャルの高いホワイトスペースと言えます。(補足:ホワイトスペースを”重要度”から考えるか、”需要規模”から考えるか)
狙うべきホワイトスペースが定まった後は『自社分析』として、自社製品のベネフィットの内、そのホワイトスペースに対して訴求力の強いベネフィットを探索します。この例では解析の結果、「自分にあったプランを提案して欲しい」というニーズに対して、「おすすめプラン作成機能」というベネフィットの訴求力が高い事が分かりました。このベネフィットを差別化ポイントとしてポジショニングすることで、効果的にホワイトスペースに訴求できると考えられます。
このようにホワイトスペース・ポジショニングでは、『顧客分析』、『競合分析』、『自社分析』という3Cの観点から市場環境の分析を行うことで、ホワイトスペースを探索し、そのスペースに自社ブランドをポジショニングするためのコアとなる自社ブランドの差別化ポイントを把握することができます。
<補足: ホワイトスペースを”重要度”から考えるか、”需要規模”から考えるか>
上ではニーズの重要度からホワイトスペースを考えていきましたが、需要規模、つまりニーズの広さからホワイトスペースを特定するという考え方もあります。ニーズの強さ(重要度)とニーズの広さ(需要規模)のどちらの視点からホワイトスペースを見つけるか、はブランド戦略によります。
当該製品を消費者に幅広く受け入れてもらいたいのであれば、需要規模で見るべきです。ただしその場合「浅く広い」消費者を対象にした大衆ブランドとして認識される可能性があり、築ける参入障壁は低くなりがちです。また、ブランドスイッチが起こりやすくなります。とにかくより多くの人に1,2回買ってもらってなんぼ、という製品の場合は需要規模からホワイトスペースを探索してよいと考えられます。
逆に、絞り込まれた特定の消費者層が繰り返し購買してくれるブランドを構築したい場合は、重要度から見るべきです。この場合、ブランドは顧客との親密な関係を築きやすくなるので、レレバンス(自分向けのブランドであると認識される事)が高まり、ブランドロイヤルティが向上するので継続購買が起こりやすくなり、参入障壁も高くなります。ただし、市場規模が狭い為、売上が頭打ちになりやすくなり、慎重なブランドエクイティの管理が求められます。
この例では、「競合が多く、すでに自社も展開している旅行予約サイト市場に、独自の新サービスを投入したい」という設定です。その場合、既存サービスとは差別化され、特定の顧客層に繰り返し利用してもらうような深いサービスが必要だろうと考えられますので、ニーズの強さ(重要度)という視点からホワイトスペースを探索しています。