消費者の購買行動「プロセスをモデル化し、課題を発見する」
製品に適した購買行動モデルを作成し、購買ファネル上のどこに問題があるのか特定する
「消費者行動図鑑」も参照ください。
Q 自社製品の認知率はある程度稼げても、多くの潜在ターゲットが購入にまで至っていないという問題で悩んでいます。問題のある箇所を特定したいのですが、どういうやり方が適していますか?AIDMAを使えばよいのでしょうか?どうも自社の製品には合っていない気がするのですが。。。
自社の保険商品のプロモーション戦略を見直しています。TVCMやWeb上でのキャンペーンを集中投下して認知率はある程度稼げているのですが、なかなかその後の成約にまで至らないようです。消費者の購買プロセスを分析して、問題のある箇所を特定し、成約促進施策を打ちたいと考えています。有名な購買行動モデルとして、AIDMAがありますよね。ただどうも自社の製品の”買われ方”に合っていないと思うのですが、それでも既存の行動モデルに合わせて分析するしかないのでしょうか?
A 業界や製品、潜在ターゲットに適した購買行動モデルを専用に作成し、その上でファネル分析を行い購買行動が停滞している箇所を特定しましょう。
既存の行動モデルを合わない製品に無理に当てはめてファネル分析を行っても、役に立ちません。まず、製品の“買われ方“を適切に表現した行動モデルを作成しましょう。そのモデルを基にファネル分析を行い、停滞箇所の特定と、停滞解消に適したマーケティングアクションを検討しましょう。
マーケティング現場の事情と課題
認知はあるのに購買されていないということは、潜在ターゲットが商品を認知した後、購買に至るまでのプロセスのどこかが滞っている、という事です。その箇所を特定し、停滞を解消するのに適したマーケティングアクションを検討しましょう。
停滞箇所の特定には「ファネル分析」を行います。この分析では、消費者の購買行動プロセスをファネル(漏斗)構造に見立てます。例えばAIDMAであれば、認知者(A)の興味(I)が喚起され、欲しいという気持ちになり(D)、記憶に残り(M)、買う(A)というプロセスに従って、各ステージにいる人数は段階的に減少していきます。このファネル上のどの段階で停滞が起こっているか(急激に人数が減少している箇所はどこか)を把握する方法がファネル分析です。
ファネル分析自体は単純な集計ですが、そもそもファネル分析を行うには「当該製品とターゲットに適した購買行動モデルを基に、ファネルが設定されている」事が前提となります。つまり、ターゲットがその製品を「どう買うか」というプロセスをまずは正しくモデル化する事が必要です。真の購買行動プロセスを外したファネルで分析しても、結局それは製品の買われ方を適切に反映していませんので、有用な知見は得られません。
現在AIDMAやAISAS(電通)、AMTULなど様々な購買行動モデルが提案されています。しかし、それぞれ開発された時代や用途が異なり、適した製品カテゴリ、適さない製品カテゴリがあります。すべからくどの製品のファネルとしても当てはまる購買行動モデルというものはありませんので、既存の行動モデルを自社製品に無理に当てはめる事は避けましょう。ここでは業界や製品、潜在ターゲットに適した購買行動モデルを専用に作成し、その上でファネル分析を行う手法を紹介します。
分析のゴール
保険商品カテゴリにおいて、「潜在ターゲットが購買(成約)するまでのプロセスをモデル化し、どのステージにおいて購買行動が停滞しているのか特定する。
分析のロジック
1.ファネル構成要素の抽出
「潜在ターゲットが購買に至る」までのプロセスの候補となり得る、態度変容や購買行動項目をワークショップや定性調査で抽出する。
2.調査票作成・データ回収
抽出した態度変容項目と購買行動項目を、購買行動の因果関係を調査する専用の質問票に落とし込み、定量データ収集。
3.製品に適した購買行動モデルを作成する
態度変容・購買行動項目を原因系から結果系に連なる因果グラフとして表現。矢印の繋がり方と因果の方向、パスの太さから製品の買われ方を正しく表現した購買行動モデルを作成する。
4.購買ファネルの作成
3で作成した購買行動モデルを基に、購買ファネルを定義し、それぞれのステージの指標となる態度変容項目や意識項目を策定する
5.ファネル分析
4で策定した指標を基にファネル分析を行い、購買行動が停滞しているステージを特定する。
アウトプットの解釈
まず、潜在ターゲットが購入に至るまでのプロセスのステージ候補となり得る、態度変容や行動項目をワークショップや定性調査で抽出して、それを基に定量データを収集します。そのデータに含まれる因果関係を解析し、態度変容や購買行動を因果の方向を示した矢印でつなぐ事で、製品の買われ方を正しく表現した購買行動モデルを作成する事ができます。このモデルをもとに購買ファネルを定義します。
上図は、保険商品について、潜在ターゲットが購買に至るまでのプロセスを表した行動モデルの例です。この例では、「商品認知」「興味関心」「情報検索」「内容理解」「価値認識」「購入」という6つのステージで購買ファネルが定義されました。
購買ファネルを定義したら、次にファネルのどのステージで停滞が起こっているのかをファネル分析によって明らかにします。まず、”停滞”が起こっているステージは、ファネルの次のステージに進む人数が少ない箇所を探すことで見つけられます。グラフから潜在ターゲット人数が大きく落ち込んでいる箇所を探すと、「内容理解」のステージで購買行動の停滞が起こっていることがわかります。この結果より、「内容理解」を促進する為の具体的な施策を打つことが、消費者の購買行動の停滞を解消し、購買(保険の契約成立)を促進するために必要だと考えられます。
このように購買行動因果モデリングでは、認知から購買に至るまでのプロセスを製品やターゲットに合わせて定義し、購買プロセスをステージに分けて考えることで購買行動の停滞箇所を特定、購買を促進するための具体的なマーケティング施策を検討することが可能になります。
なお、購買行動因果モデリングで得た、購買行動モデルは他の様々な課題解決に応用できます。例えば、各ステージの指標自体をマーケティング活動のKPIとしてトラッキングしていく事が挙げられます。また、
・プロセス停滞解消の為の具体的なマーケティング施策を導く、ファネルドライバー分析
・購買行動からポジショニング戦略を見直す、ファネル・リポジショニング
・購買行動を促進する為にコンタクトポイントでのコミュニケーションを最適化する、ブランドコミュニケーションポートフォリオ
など、様々な活用方法があります。そのため、商品に合わせた購買行動モデル(購買ファネル)の作成は、顧客志向のマーケティングを進める上で非常に重要なポイントと言えます。