インサイト視点のコンセプト/クリエイティブテスト
コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング、クリエイティブの競争力、訴求力をインサイトレベルでチェックし、インサイトとの一貫性を保つ
Q 作成したコンセプトは、本当に消費者のインサイトを突いているのでしょうか?競合に勝てるだけの訴求力があるのでしょうか?
弊社では製品コンセプトを開発をする際に、定性調査で抽出したコンシューマーインサイトを広告代理店に渡して複数のコンセプト案を出してもらい、それらの受容性をテストしています。コンセプトテストをお願いしている調査会社さんでは「信頼性」や「ユニークネス」「理解度」「購買意欲」などの指標で受容性を評価してもらってます。受容性の高いコンセプトに基づいて製品やコミュニケーション開発をしても、実際の売上はまちまちです。インサイトを突いているはずなのに、何故なのでしょうか?コンセプトスクリーニングの精度を上げるのに、良いコンセプトテストの仕組みはありませんか?
A 解析によりコンセプトとインサイトの整合性をチェックし、インサイトレベルでの競争力を算出しましょう。
定性調査で消費者の生活コンテクストやブランド体験を調査しても、コンセプトがインサイトレベルで競合に負けていては市場での競争には勝てません。また強固なインサイトを見つける事ができても、作成したコンセプトが元のインサイトと一貫性を保っていなければ、せっかくのインサイトが台無しになってしまいます。これらの視点は重要であるにも関わらず、コンセプト受容性調査で従来から用いられてきた指標(信頼性や理解度、興味喚起など)では測定できません。以下のロジックでコンセプトスクリーニングの精度を上げましょう。
<受容性> 受容される為の基本的な要件を備えているか?
<一貫性> 作成したコンセプトが、本当に消費者のインサイトを突いているのか?ベースとなったインサイトから離れていないか?
<競争力> 実際の市場の競合製品と比べて競争優位に立てるコンセプトなのか?競合より高いレベルでインサイトを突いているか?
マーケティング現場の事情と課題
インサイトは、表出していない消費者の不満や問題点、要望等の”潜在的なキモチ”です。コンセプト開発の中で、そのキモチに”刺さる”価値の提案が出来て初めて、企業はインサイトを戦略的に利用する事ができます。逆に言えば、いくら定性調査で良いインサイトが見つかっても、製品やサービスが提供する価値(プロポジション、と言います)がインサイトを突いていなければ意味がありません。
しかし、インサイトをコンセプトに落としていくプロセスの中で、様々な理由からバイアスがかかります。「インサイト探索の現場に出ていないキーマンの一言で、売りたいテクノロジーやベネフィットありきの価値提案になってしまった」、「調査して出したインサイトを広告代理店に渡してコンセプトを作ってもらったが、代理店側の独自の解釈でコンセプトが作成された」等はよく聞く話です。その結果、作成されたコンセプトがインサイトを外した価値提案になってしまえば、せっかくのインサイトは台無しになってしまいます。
<一貫性>
コンセプトテストの中でちゃんと「インサイトに沿って訴求する力がどの程度あるのか?」をチェックしておく事が重要なのですが、従来のコンセプトテストにはこの「インサイトとの整合性・一貫性をチェックする」という機能がありませんでした。信頼性、独自性、理解度、好感度、共感性、興味喚起力、インパクト、ふさわしさ等は昔からコンセプト受容性評価に用いられてきた古典的な項目です。しかしこれらの指標は、コンセプトの”基本的な出来”を見る上で役に立っても、インサイトとの一貫性は見る事ができません。これらの指標で受容性が高いと判断されたとしても、必ずしもインサイトを突けているとは限らないわけです。
また、カテゴリによってモノの買われ方は異なりますから(例えば自動車と洗剤では買われ方が違う)、キーとなる指標も当然異なってきます。インサイトとの一貫性に加え、購買行動や売上と相関が高い指標を選択しないと、「調査では受容性が高かったのに、上市してみたら売上が思うように伸びなかった」の様な問題が起こる事になります。
<競争力>
コンセプトテストには、自社製品が「上市後、実際に競争する競合製品に対する競争力が正確に判定できる」事が望まれます。そもそも競合他社も同じようにインサイトベースでの製品開発は行っていると考えるのが自然ですので、まず「インサイトレベルで競合に対しての優位性が築けているか?」をチェックしておく事が肝要です。この点をケアする為、過去の様々なコンセプト調査から受容性の「ノルム値」を蓄積していて、「そのノルム値と比較して、今回のコンセプトがどれだけ魅力があるのか?」を判断する仕組みを持つコンセプトテストもあります。ただし、注意すべきポイントが2つあります。
1つは、テストするコンセプトが上市後に競争するのは、”現在”市場にある競合製品群である、という事です。蓄積ノルムというのは、”過去”市場においての”過去”製品のコンセプト受容性の平均値です。従って、競争力を正確に測るには、過去ではなく現在の競合製品のコンセプトと比べてどうか、を測定できる仕組みが必要になります。
2つ目は、テストするコンセプトと同じ製品カテゴリ、同じターゲットセグメントのノルム値を用いる必要があります。例えば”自動車”のコンセプトのノルム値を用いて”洗剤”のコンセプトの良し悪しを比較すべきではありませんし、製品ターゲットが男性の時、男女混合のノルム値を見ても仕方ありません。「誰の何に対する受容性を語っているのか?」という部分が曖昧になるからです。
以上のような課題を解決する為、ここではまず、様々な指標の中から当該製品の購買行動に対して影響力の強い指標を選択すると共に、コンセプトのインサイトとの一貫性を測定する枠組みを紹介します。競合との比較に関しては、(過去製品から計算したノルム値ではなく)現在市場にある競合製品のコンセプトを逆解析し「現行市場のノルム値」を算出、それと比較を行う事で、自社コンセプトの競争力を精度よく計算する手法を紹介します。本手法は、コンセプト受容性調査以外にもパッケージデザイン評価やネーミング評価、広告テスト(クリエイティブ評価)などにもモジュールとして組み込んでご活用頂く事が可能です。
分析のゴール
自社製品のコンセプト案を、「基本的な受容性」「インサイトとの一貫性」「競合との競争力」の視点から総合的に評価し、Go or NoGoを決定する
分析のロジック
1.作成したコンセプトを、受容性の基本的な基準から評価する
信頼性、独自性、理解度、好感度、興味喚起、購入意向など基本的な受容性基準から作成したコンセプトを評価する
2.作成したコンセプトを、インサイトとの一貫性という観点から評価する
作成したコンセプトを「インサイト一貫性指標」で評価し、インサイトとの間に一貫性・整合性が取れているか検証する
3.作成したコンセプトを、競合製品との競争力という観点から評価する
競合の製品コンセプトをインサイトレベルで分析し、現行市場におけるノルム値を作成、それをベンチマークとして自社コンセプトの競争力を評価する
4.コンセプトのGo/NoGoの決定と修正
(1,2,3の結果、現行のコンセプトがNoGoとなった場合)インサイトに戻ってバリュープロポジションの練り直し・コンセプトの修正を行う
アウトプットと解釈
作成したコンセプト案は、
1. <受容性> 受容される為の基本的な要件を備えているか?
2. <インサイトとの一貫性> ベースとなったインサイトから離れていないか?
3. <競争力> 競合より高いレベルでインサイトを突いているか?
の3つの視点からチェックします。まず、「1.コンセプトとして受容される為の基本的な要件」とは、信頼性、独自性、理解度、好感度、興味喚起力、インパクト、エンゲージメント、ふさわしさ、そして総合魅力と購入意向などの、従来から用いられている指標から見てどうか、という視点です。定量アンケートでこれらの指標を質問項目に落としてデータを収集します。分析時には全ての指標を用いても良いのですが、指標の数が多くなると「結局どれで判断すれば良いのだろう?」となってしまいます。
そこで、「購入意向を目的変数として重回帰分析をした時、係数の大きい指標を優先的に見ていく」というロジックで指標に優先順位をつけておくと良いでしょう。いくらコンセプト間で差がつくような項目でも、購入意向に寄与していなければ指標として採用するメリットは少ないです。例えば「ユニークネス・独自性」の様な項目は、コンセプトの中に目新しい表現やユニークなデザインを入れれば統計的な有意差は出易くなります。しかし、奇抜なアイディアは消費者には受け入れ難く捉えられ、購入したいとは必ずしも思われない可能性もあります。よって、購入意向に寄与する程度が高い指標から優先順位を高くして見ていく事が望まれます。
基本的な指標と同時に見ておきたいのが、「2.作成したコンセプトが、そのベースとなったインサイトと一貫性があるか」という事です。具体的な手順としては、まず作成したコンセプトの中の「インサイトとプロポジション」にあたる部分を抜き出し、コンセプトを評価する為の評価項目(インサイト一貫性指標)を作ります。インサイトはターゲット消費者が無意識的、潜在的にでも望んでいる”ニーズ”、プロポジションは製品が提供できる”価値”です。つまりこの部分は「どのようなインサイトに対して、どのような製品ベネフィットで訴求しているか」という関係性を表しており、作成したコンセプトの「バリュープロポジション」にあたります。
次に、実施するコンセプトテスト(定量アンケート)の中で、作成したインサイト一貫性指標を使ってデータを収集します。データ解析を行い「作成したコンセプト案がインサイトとプロポジションにどの程度即しているか」をスコアリングします。実際にはインサイトとの一貫性が数値で算出されますが、このアウトプットでは分かり易さの為、○(インサイトと非常に一貫性がある)、△(インサイトとまあまあ一貫性がある)、×(インサイトと一貫性が低い)の様に表現しています。○△×を判定する閾値も、解析の中で算出されます。下図はインサイトとの一貫性評価と、コンセプトの基本的な受容性評価の結果を一覧でまとめた「スクリーニングマトリクス」です。
この例だと、まず、基本要件の評価では、コンセプト1とコンセプト3の「信頼性」「エンゲージメント」は評価が高く、基本要件で見るとコンセプト1とコンセプト3が良いコンセプトだといえます。次に、インサイト一貫性指標を見ると、コンセプト1はコンセプト3と比較して、「家事が忙しい」「皿洗いに手間をかけたくない」といったインサイトと非常に即していることが分かります。このように、この2つの指標を見ることで、コンセプト1が最も優れているコンセプトだと判断することが出来ます。
次に「3.作成したコンセプトが、競合製品より高いレベルでインサイトを突いているか」をチェックします。コンセプトの競争力をインサイトレベルで測定・比較するには、作成した自社のコンセプトのバリュープロポジションの”強さ”を算出し、競合製品のバリュープロポジションの”強さ”と比較します。バリュープロポジションとは、コンセプトの中で「インサイト – 製品ベネフィット」の関係性を表す部分の事でした。自社のバリュープロポジションに関しては、上記2<インサイトとの一貫性を測る>で把握しました。競合のバリュープロポジションの把握と、バリュープロポジションの強さの算出には「コンテクスチュアルポジショニング」(※)と言う手法を使います。下図は解析により把握した、競合及び自社のバリュープロポジションとその強さです。
競合より高いレベルで”自分向け”と共感させる事が出来れば、インサイトレベルで競争優位なバリュープロポジションと言えます。上図では”レレバンス値”と言う値が各バリュープロポジションに計算されています。この値は、各コンセプトが「この製品は、自分の様な生活コンテクストを持ち、自分の様なキモチや悩み・価値観を持つ消費者の為にあるんだな=自分向けの製品」とターゲットに思わせる力の強さを示しています。
現在市場にある製品のレレバンス値の平均が、現行市場のノルム値となります。このノルム値をベンチマークとして自社の製品コンセプトを比較し、ノルム値より高ければGo、低ければNoGo(コンセプトの練り直しが必要)と判断できます。また、特定の競合製品のレレバンス値をベンチマークとして、それより高ければGo、低ければNoGoとする考え方もありえます。
コンテクスチュアルポジショニング(※)を用いる事のメリットは、現行のコンセプトがNoGoとなった場合、消費者のインサイトに戻ってバリュープロポジションを練り直す事ができる、という点です。コンテクスチュアルポジショニングの定性調査部分で様々なコンテクスト項目がインサイトの素として抽出してある為、例えばマーケターが仮説的に、「製品ベネフィットを、この生活者コンテクストと結び付けて価値の提案をした場合、競合と比べてどの程度インサイトに訴求できるだろうか?」という事を数値で比較シミュレーションする事ができるわけです。加えて、解析によりあらゆるコンテクスト項目と製品ベネフィットの組み合わせのレレバンス値を算出する事が出来る為、インサイトをより高いレベルで付くことができるコンセプトを網羅的に探索する事もできます。
※<コンテクスチュアルポジショニングの概要>—————————–
-競合のバリュープロポジションの解明について
具体的にはまず、現在市場にある競合製品をリストアップし、競合の製品ベネフィットを網羅的に書き出します。次に観察調査やデプスインタビューなどの定性調査、またはワークショップを通じて当該製品カテゴリの利用シーンや利用時の気持ち、体験、潜在ニーズなどを把握し、項目として抽出・整理します。これらは、競合のインサイトの候補となっている項目で「コンテクスト項目」と呼びます。抽出した競合の製品ベネフィットとコンテクスト項目について定量アンケートでデータを収集し解析する事で、それぞれの競合製品について「どのようなインサイト(コンテクスト項目)に対して、どのような製品ベネフィットで訴求しているか」という関係性を解析的に把握する事ができます。
-バリュープロポジションの強さ算出について
コンセプトが「競合より高いレベルでインサイトを突く」とは、言い換えれば競合製品より自社製品の方がより「自分に向いている、自分にふさわしい」と共感してもらう事です。従って、バリュープロポジションの”強さ”を測定するには、そのバリュープロポジションが「消費者に、製品をどれだけ自分向けと思わせる事ができるか」を計算すればよいわけです。この値は、解析を行うとレレバンス値という値で算出されます。
詳細については、こちらのページをご覧ください。
<関連手法>
・コンセプトテストの結果を用いて、売上予測を行う(トライアルリピートモデル)
・「購買行動を促進させる」という視点からのコンセプト開発とコンセプトテスト(ファネルリポジショニング)