オフラインメディア、オンライン/ソーシャルメディアの広告効果を包括的に測定・比較
TVや雑誌等のオフライン広告と、オウンドメディアやソーシャルメディア等のオンライン広告の、購買行動に対する広告効果(影響力)を比較可能な指標として算出する。
Q マス4媒体、ネット広告、ソーシャルメディア、自社メディアなど様々な媒体でメディアミックスを組んでいます。各媒体がどの程度消費者の”行動”や”意識”に影響を与えたのか、正確に測定・評価する事はできますか?
自社の主力ブランドである制汗剤のリピート購買を促進するプロモーションを担当しています。今まで様々な媒体を使用してクロスメディア展開してきましたが、媒体の効果を正確に評価した上で、今後の媒体戦略を検討したいと思っています。Webの広告効果測定ツールは色々ありますが、従来のマス4媒体やソーシャルメディア等、弊社が利用している媒体の効果をすべて同一土俵上で比較したいのですが、可能でしょうか?
今は、評価の為に定量アンケートを行い、「どの媒体がきっかけとなってリピート購買しましたか?」と聞いているのですが、これで広告効果はちゃんと評価できるのでしょうか?逆に自分が「何がきっかけで製品を買ったか?」と聞かれてもちゃんと答えられない気がします。例えば、私が最近新発売されたエナジードリンクを買った時のケースで(強いて)言えば、「TVCMで見たキャンペーンが面白そうで、ソーシャルメディアで参加してみたら他のユーザーの話も聞け、いいなと思っている時に通勤電車の中吊りを見てリマインドされ、駅の売店で買った」の様な感じです。ソーシャルメディアがきっかけと言えばそうですし、TVCMがきっかけと言われればそれも合っている気がします。こういう場合、広告効果はどう評価すれば良いのでしょうか?
A 媒体が直接的に購買行動を促進する効果と、他の媒体を経由して間接的に購買行動を促進する効果を分けて測定し、媒体それぞれの総合的な効果を算出する手法を用います。
オンラインメディアとオフラインメディアの影響力を比較可能な数値として算出する事は可能ですが、アンケート等で「どの媒体がきっかけになってリピートしましたか?」と直接聴取して集計すると、問題が生じます。消費者は「自分が何にどれ位影響を受けて、行動したのか」正確に判断して回答する事はできないからです。また、リピートに至るまでの態度変容や行動変容に対する媒体の影響が分からない、「TVCMを見て製品のWebサイトに行き、そこでキャンペーンに参加してリピート購買する」の様な媒体間の繋がりによる間接的な効果が測定できない、といった問題も起きます。
これはデータの単純集計ではなく、解析により、使用媒体が直接の原因となって購買行動を引き起こす効果と、他の媒体との交互作用によって購買行動を起こす効果の両方を算出します。実際には非常に膨大な数のコンタクトポイントが複雑に影響しあって、消費者の購買行動を推進する為、推定には確率過程を用いたシミュレーションやベイズ統計などを使うと、良いモデリングが行えます。
マーケティング現場の事情と課題
広告効果を考える時は、直接効果と間接効果を分けて考える(測定、算出)する事が肝要です。直接的な効果とは例えば、TVCMで製品を見てその製品買いに行く、という様な効果です。TVCMを見たことが直接的な原因となって、購買行動が発生しています。
間接的な効果とは、TVCMを見てその製品のWebサイトに行き、そのサイトで購買(コンバージョン)に至った時の、TVCMの購買に対する効果です。TVCMを見た事でブランドに対する短期的な興味や好意が形成され、それをWebサイト上で刈り取った場合、TVCMは直接購買を引き起こした訳ではありませんが、間接的に購買喚起に貢献しています。
これは簡単な例ですが、実際には数多くのコンタクトポイントが直接効果、間接効果を発揮し合って、消費者の行動や態度形成に影響を与えています。どうすればそれらの効果を算出・評価する事ができるでしょうか?
かつては消費者アンケートで「何が購買のきっかけとなりましたか?」等と質問しそのデータを集計して、どのメディアが購買行動への効果が大きそうだ、という事をざっくり把握するという方法が主流でした。今でも広告効果測定というテーマでこのタイプのデータが収集されレポートされています。
ただし、この方法には既知の問題が大きく3つ内在しています。それは、
1 消費者は「自分が何にどれ位影響を受けて、行動したのか」正確に評価して回答する事はできない。
2 メディア間の間接効果が見えない。
3 購買に至るまでの過程に対して、各媒体がどう影響したのか分からない
という事です。
まず「何がきっかけとなったか」という事を消費者は正確に判断できません。自分が思い出せる範囲で記憶に残っている媒体を回答するのが精一杯でしょう。しかし実際には、様々なコンタクトポイントにおけるブランド体験や過去の使用経験、ソーシャルメディアでの他のユーザーの感想、小売店での山積みやセールなど、様々な要因が複雑に絡み合って「買う」という判断に至ったであろう事は想像に難くありません。結果的に、直接聞くという方法には相当の誤差が含まれる事になります。
そして「何がきっかけとなったか?」は、直接効果は何でしたか?と聞いているのと同意です。これは「間接効果は0」とみなしている事になるので、このデータを集計して求めた広告効果は必ず過小評価されます。また、いわゆるAIDMAなどのマーケティングファネルの考え方から見れば、いきなり購買が起こる訳ではなく、購買に至るまでには、認知、関心、比較など複数のステージがあるわけです。そのプロセスを促進させる事も広告の効果なのですが、この効果が見落とされています。
では、どうすればよいのでしょうか?ここでは、ターゲット消費者の「購買行動プロセス」に対する、媒体の「直接効果+間接効果=総合効果」を正確に算出して、媒体の効果の大きさをApple to Appleで比較し、最も効果の大きい媒体を特定する方法を紹介します。
分析のゴール
・使用媒体のリピート購買に対する総合的な効果を算出し、最も効果の強い媒体を特定する。
分析のロジック
1.使用媒体との接触状況と、購買行動を測定したデータを収集する
どの媒体とどれ位接触した事で、どんな購買行動を起こしたかを示すシングルソースデータを収集する
2.直接効果を算出する
使用媒体が、直接の原因となって購買行動を引き起こす効果を算出する
3.間接効果を算出する
使用媒体が、他の媒体を介して(経由して)行動喚起に貢献する効果を算出する
4.総合効果を算出する
媒体ごとに、総合効果を算出する
5.総合効果の比較
リピート購買に対する総合効果を媒体間で比較して、最も効果の大きい媒体を特定する
アウトプットと解釈
まず、広告媒体の直接効果を算出します。話を簡単にする為に、最初は以下の前提で話を進めます。
●コミュニケーションのゴール:リピート購買を増やす事
●使用媒体:OOH広告、ソーシャルメディア
OOHとソーシャルメディアの2媒体を使って、製品のリピート購買を増やそうとしている状況です。どちらの媒体がリピートを促進する効果が強いのでしょうか?媒体との接触状況(どちらの媒体とどれ位接触しているか)と、購買行動データ(リピート購買の有無、頻度、購入量)が分かるシングルソースデータを収集し、解析すると各媒体のリピート購買に対する直接効果量を算出する事ができます。
さてここで、「消費者は自分が何にどれ位影響を受けて、行動したのか」正確に評価して回答する事はできない。」という問題がありました。これは、データ中に「何にどれ位影響を受けたのか」ある程度正確に答えられている回答と、正確でなない回答(覚えていない、判断できないなど)が混ざっている状態です。誤差制御専用の解析アルゴリズムを用いると、後者を誤差として補正してくれます。
OOHの直接効果はAのベクトル、ソーシャルメディアの直接効果はBのベクトルで表されています。この直接効果の大きさだけを比べると、リピート購買にはOOHの方が効いているように見えます。しかし前述した様に、メディアの効果は直接効果だけで測る事はできません。下の図を見てください。
OOHからソーシャルメディアを経由してリピート購買へ向かうプロセスが示されています。これは「OOH広告からソーシャルメディアに流入して、その結果リピート購買する」という行動を表したパスです。OOHにはソーシャルメディア経由で購買に貢献する、という効果(=間接効果)もあるわけです。解析を進めると、この様な間接的な効果を持つ経路が「どの媒体間に、どういう方向で存在し、どの程度の効果量を持っているのか」を出力させる事ができます。
ここまでで「リピート購買」に対する、2媒体の直接効果と間接効果を算出する事ができました。これで十分でしょうか?リピート購買はいきなり起こる訳ではなく、そこに至るまでのプロセスがあるはずです。今のままだと「リピート購買に至るまでのプロセスに対して、各媒体がどう影響したのか?」という部分がケアされていません。例えばリピートの前には必ずトライアル購買があるはずです。ブランドへの好意形成や信頼形成、といったステージもあるでしょう。従って、まず「消費者サイドでは、どういう過程でリピート購買に至るのか」という行動プロセス(ファネル)の把握が必要です。その上で、その行動プロセスに対してOOHとソーシャルメディアがどれ位効いているのか、という効果測定が必要になります。
更に、ここでは話を簡単にする為に媒体をOOH広告とソーシャルメディアの2つにクローズアップして話をしていますが、実際にはTVCM、雑誌、新聞、オウンドメディア、リスティング広告やタイアップ記事、メールマガジン、店舗や販売員製品などのコンタクトポイントまで含め、非常に膨大な数の顧客接点が間接効果を発揮し合う事で「ブランド体験」を形成し、それが消費者の購買行動プロセスを促進しています。この様な場合の推定は、確率過程を用いたシミュレーションやベイズ統計などを使うと、良いモデリングが行えます。
さて、ここまでの話の中で間接効果は一方向の矢印で表してきましたが、実際には双方向の間接効果も存在します。例えば下の図4を見てください。ここまで「ソーシャルメディア」と一括りにしてきましたが、その中の具体的なビークル間の繋がりを見てみましょう。
Webキャンペーンを実施し、ソーシャルメディア上での情報拡散を発生させる例から考えます。ある消費者が、Webニュースサイトから、YouTubeの商品紹介動画の存在を知ってアクセスし、内容について自分のFacebookのタイムラインに投稿。さらにFacebookへの投稿が自動的に自分のTwitter上にもツイートされ、それを見たフォロワーがFacebook上でアクセスする・・・など、Web上での情報拡散の過程には、複数のソーシャルメディアが相互に関係し合います。従って、双方向に影響しあう間接効果や、リンクをたどり媒体を回遊するループ状の間接効果による、購買行動への影響を算出する必要もあります。この様な過程をモデル化するには、通常の多変量解析では対応できません。ブラウン運動や確率微分方程式など数学的な話になるのでここでは割愛しますが、確率過程を用いたシミュレーションアルゴリズムで対応するのが有効な手立ての1つとなります。
使用媒体のリピート購買に対する”総合的な効果”を算出するには、最初に紹介した直接効果に加え、上記の様に複雑な間接効果を推定した上で掛け算を行い、リピート購買に至るまでの「プロセス」に対する効果も算出し、全てを足し上げる事が必要となります。普通の加減乗除ではなく確率分布同士の掛け算足し算を含みますが、専用のアルゴリズムを用いると以下の様なアウトプットができます。
OOHとソーシャルメディアのリピート購買に対する効果は、直接効果(A・B)で比較した場合は「OOH」の方が高いという結果でした。しかし、様々な間接効果の和(A2・B2)を加え、総合効果で比較した場合、「ソーシャルメディア※」の方が効果が高いことが明らかとなりました(仮想の分析例です)。この様に、従来型の広告媒体からWebやソーシャルメディアに至るまで、様々な媒体が複雑な広告効果を発揮している場合でも、ベイズ統計や確率過程のシミュレーションを用いると、誤差を切り分けそれぞれの媒体の真の効果を正しく推定・評価する事が可能となります。
※「ソーシャルメディア」の総合効果は、「Facebookの総合効果」+「Twitterの総合効果」+「YouTubeの総合効果」です。解析時には、それぞれのソーシャルメディア毎に総合効果を算出します。