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媒体間導線のモデリング

媒体間の繋がり – 媒体間導線のモデリングと効果測定

 さて、前回のエントリー「購買行動プロセスのモデリング」では、広告投資とリターンの間にある過程を可視化する為に、「消費者が商材を買うプロセスを正しくモデリングする事」が重要である事を説明しました。

 本稿ではもう1つの重要な視点として「媒体間の繋がり」を取り上げます。この考え方は、オンラインとオフラインを繋ぎ、トータルで広告の費用対効果を算出する為に必要な部分です。

 アトリビューション分析に近い考え方ではありますが、経路・媒体に対する貢献度は、設定した広告目的に対する総合的な影響(効果)の大きさで重み付けします。例えば、戦略目的が初回購買なら初回購買、リピートならリピート、ロイヤルティ向上ならロイヤルティに対する媒体の効果の大きさにより、貢献度は変化します。コンバージョンに近い方を重くみる、や全体を均等に見る、の様な事はせず、あくまで目的に対する各媒体の貢献度合いで決めます。

 その計算の際に大切な役割を担うのが今回説明する直接効果と間接効果です。マス広告とデジタル媒体を組み合わせたクロスメディアやトリプルメディア、CSRや販売員まで含めたコンタクトポイントのROIを考える際の基本になってくるので、重要な考え方です。

 まずは、前回と同じ(3-8)式からスタートして考えてみます。

 今回は右辺を見て下さい。TVCM、Webサイト、・・・媒体mまで使っている広告・プロモーション媒体があるとして、式はそれぞれの媒体が、個別に売上に貢献している事を表しています。その貢献度合いが広告効果です。TVCMが購買を引き起こす力が、TVCMについている係数、つまりTVCMの広告効果という事です。

 では、TVCMを見てブランドのWebサイトに行き、そのサイトで購買(コンバージョン)した時の、TVCMの購買に対する効果はどうなるでしょうか?他にも雑誌やチラシや店頭プロモーションやソーシャルメディアがクロスで使われていた時、そのクロスによる効果はどこに出てくるのでしょうか?

直接効果と間接効果

 広告やプロモーションが消費者の態度や行動に影響を与える道筋には2種類あります。1つが「直接効果」、もう1つが「間接効果」です。直接効果というのは例えば、自分が知らなかった新製品が山積み陳列されていたのでその場で買った、という様な場合です。陳列プロモーションが直接的な原因となって、購買行動が発生しているので「直接」効果と言います。

 間接効果というのは例えば、TVCMを見てその製品のWebサイトに行き、そのサイトで購買(コンバージョン)に至った時の、TVCMの購買に対する効果です。TVCMを見た事でブランドに対する短期的な興味や好意が形成され、それをWebサイト上で刈り取った場合、TVCMは直接購買を引き起こした訳ではありませんが、間接的に購買喚起に貢献していますので、「間接」効果と言います。

 「広告効果と費用対効果 – 分析上の注意点」で見たように、計量経済モデルを応用した従来のアプローチでは直接効果の推定がメインとなります。(3-8)式で扱われている「TVCMの効果」や「Webサイトの効果」は、直接効果です。しかし、近年のクロスメディアやトリプルメディア戦略においてはむしろ、間接効果のモデリング及びそのROIの推定がメインとなってきます。その事を踏まえて、直接効果と間接効果をモデリングした簡単な例を見てみましょう。

効果分解モデル

 広告効果の分解及び、媒体個別の効果推定に使うモデルを広告効果分解モデルと言います。「TVCMとWebサイトの2つの媒体で、あるビールの購買意向を高める」というシンプルなケースを考えてみます。ただしTVCMとWeb広告は独立ではなく、TVCMでは「続きはWebで」として自社Webサイトへ送客しています。また簡単の為、直接Webから入る経路は無しとします。

 この時、購買意向はTVCMとWebの関数となり、TVCMからWebへ送客している事を加味すると

 と表現されます。TVCMとの接触の増加に対する購買意向の増加の比は、

 です。(3-9)式は購買意向に対して複数の影響の経路を考えるモデルなので全導関数を考えます。全微分して両辺をdtvで割ると、

 が得られます。(3-12)式の右辺第一項はTVCMとの接触が直接的に購買意向を高める効果を表現しています。それに対して右辺第二項はTVCMとの接触がWebサイトとの接触を増やし、それが購買意向を高める効果を表しています。つまり前者が直接効果、後者を間接効果を表す項です。

 この様に、戦略的に張られた媒体間の導線とそれに伴う行動を考えると、反応関数は加積が混在した形状になります。この例では、説明を簡単にする為に使用媒体は2つだけにしています。しかし実際の分析の場面では、広告・プロモーション合わせてもっと多くの媒体がざらに使われているので、方程式は複雑になります。

間接的な効果の視覚化 – 簡単な確率過程を用いた例

 数式だけだと直感的に分かりにくいかもしれないので、図的に表してみます。マルコフ過程という簡単な確率過程を使って説明したいと思います。

 マルコフモデルは、Googleのページランクの算出や最新のアトリビューション分析にも使われています。ちなみにROI+でもオンラインだけではなく、オフライン広告、もしくはオンラインとオフラインを組み合わせた時の広告効果測定において、主力なモデルの1つとして活用しています。

 さて、先ほどの効果分解モデルの文脈で話を続けていきます。TVCMでこのビールのブランドと接触した人は、次にとる行動として{1.またTVCMと接触する、2.Webサイトと接触する、3.ブランドを購買する、4.ブランドを購買しない}の4つがあり、必ずどれかの行動を起こす、とします。(※1)

 その様子を観察すると、行動は以下の様なルールに従って発生している事が分かりました。

 これを、推移確率行列といいます。1行目を見てもらうと、TVCMに接触した人の内20%がもう1回CMに接触し、30%がWebサイトに遷移し、10%がこのビールを購買し、40%は購買しない事が読み取れます。

 この時、離散的な状態空間S={1,2,3,4}に対して、定常な単純マルコフ過程(※2)を想定すると、初期状態iからnステップ後に状態jにいるという条件付き確率

 に対して、以下の等式が成り立ちます(※3)。

 以上の条件で、この時間確率過程をシミュレーションすると、次のような結果が得られます。

 この時のP(購買)の曲線は、先の微分方程式におけるTVCMの直接効果と間接効果を合わせた効果を、時間確率過程で表したものです。

 さて次に、TVCMからWebへの間接効果が無い場合を見てみます。簡便的に、行列の(1,2)成分であるp12=(Sn+1=Web接触|Sn=TV接触)を0にして、それ以外は触らず、もう一度シミュレーションを走らせると、以下の様なアウトプットになりました。

 図1に比べて、P(Web接触)とP(購買)が若干シフトダウンしている事が分かるでしょうか?分かりやすくする為に、間接効果が有る場合と無い場合の、P(購買)を比較してみます。

 間接効果がある場合の方が、P(購買)が高い位置にある事が分かると思います。つまり、TVCMがWebサイトを介して消費者に影響を与えたおかげで、ビールの購買確率がアップしたわけです。この2つの曲線の間の面積が、TVCMがWebを通して購買に与える影響力の大きさです。この例は、2媒体のみの限定的な媒体間導線(TVからオウンドメディアに送客)なのでさほど変わらないように見えるかもしれませんが、マス媒体やプロモーション媒体、デジタル媒体を組合わせた実際のクロスメディアやトリプルメディアでこの分析を行うと、この面積は想像以上に大きくなります。

それだけ「媒体の組合わせ」というものは影響が大きい、という事です。当然、費用対効果も違ってきますので、クロスメディアやトリプルメディア戦略を考える時には、事前シミュレーションと実施後の効果検証をしっかり行い、「どの媒体とどの媒体を組合わせて導線を作るか?」、「それぞれの媒体にどれだけ投下するか?」という意思決定の精度を高める事が重要です。

 さて、今回は目的変数は”購買意向”や”購買”に限定していますが、「購買行動プロセスのモデリング」で見たように、それらは購買行動プロセスの1ステージにすぎません。広告の費用対効果をきちんと見るには、プロセス全体に対して、上記の様な効果を考える必要があります。次のエントリーではその辺りを詳しく見ていくと共に、媒体個別の増分リターンの算出を定式化したいと思います。

※1 厳密にはこの4状態はMECEでないので実際の分析ではだめですが、説明の為よしとして下さい。

※2 次の期における状態が1期前の状態にのみ依存し、それより前には依存しないのが、単純なマルコフモデルです。広告やプロモーションにおける媒体間遷移は、1期前より更に過去における履歴にも影響されると考えるのが自然なので、実際は単純なマルコフではなく、多重マルコフ過程を考えます。

※3 この条件を、チャップマン・コルモゴロフの等式と言います。これを満たすと、n回の遷移の後どの状態であるかが推移確率の掛け算と足し算で求まるようになります。要は計算が簡単になるという事です。

⇒次ページ「広告効果の分解」はこちら

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