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リターンを利益で見るか、売上で見るか?

ROIが難しい理由1 利益計算が必要

 ROIは利益ベースで考えるので(※1)、当然利益計算が必要なのですが、一般的に企業が利益を確定するのは非常に大変な作業です。簡単に言えば決算する事になるので、ROI計算の為とはいえ、期の途中でマーケターが手元で行うのは非常に難しい事が多いと思います。1人のブランドマネジャーが財務含みブランドの全てを管理する事業部制をとっている場合、ざっくり利益を計算する事もできるかもしれませんが、その場合でも、四半期決算や中間決算に合わせて行う事が多いです。新製品プロモーションやキャンペーンに合わせて随時行うケースは稀です。

ROIが難しい理由2 利益は広告以外の費用科目に左右される

 企業や事業の収益性を測る分には、様々な投資やリターンが行われる中で、事業や企業全体として「投資の何倍儲かったのか」を総合的に判断すればよいわけですから、利益/投資額で妥当な測定が出来ると言えます。しかし広告のROIを考える上では、この「結果的に幾ら儲かったのか」だけで判断すると、効率性指標として齟齬が生じる事があります。利益は当然広告にも左右されますが、広告以外の費用科目にも左右されるからです。以下の例を見てください。

 あるブランドの昨年の広告宣伝費は1億円で、売上は10億円でした。

  売上原価:5億円
  販管費、販売費(広告宣伝費含まず):2億円

 だったので、営業利益は2億、広告のROIは(10-5-2-1)/1×100=200%でした。

 さて今年も変わらず広告宣伝費は1億円、売上は10億円でした。しかし今年は、
  ・工場の新しい生産ライン増築に4000万円
  ・石油が高騰し、製造原価が増額3000万円
  ・人事で新しい給与システムを入れて1000万円
  ・支社ビル移転で、2000万円
 などが発生し、合計1億が販管費と売上原価に上乗せされました。

  売上原価:5億円+4千万+3千万=5億7千万
  販管費、販売費(広告宣伝費含む)=2億+1千万+2千万=2億3千万
 となりその結果、営業利益は1億、広告のROIは(10-5.7-2.3-1)/1×100=100%になりました。

 去年も今年も、売上、広告宣伝費共に変わっていませんが、広告のROIは100%減りました。

 上述した様に、ROIとして利益ベースで考えればどんな事情があったにせよ、財務処理上、売上から売上原価など広告とは関係のない費用も減じなければなりません。すると利益が変動する為、見かけ上「広告の」ROIも変動します。広告と関係の無い科目に左右され「広告の」ROIが変化するというのはおかしな話で、指標のロバストネス(※2)を損ねます。

 企業や事業のROIは、資本を投下する対象が企業や事業であり、その収益性や資本の運用効率を総合的に判断する為のものです。従って、広告も広告以外の費用科目も含めて算出されて然るべきです。

 しかし広告のROIの場合、資本を投下する対象は当然広告ですので、広告管理の視点では「広告に幾ら使って、広告から幾ら返ってきたのか」という、「広告」に限定された投資効率性を見る必要があります。利益ベースの計算では、広告は悪くないのに他の科目のせいで広告の収益性が悪く見られたり、広告はあまり良くないのにたまたま収益性が高く見られる可能性があるので、その点注意が必要です。

ROIが難しい理由3 将来のキャッシュフローが加味されない問題

 単純に期ごとの営業利益ベースで計算すると、広告から生まれる将来のキャッシュフローが加味されず、投資対効果が過小評価になる恐れも出てきます。ROIを算出しようとする時、直前の期末で確定されている利益を用いる事は、その時点で回収済みの利益分のみでROIを算出する事を意味します。

 しかし、広告の中には投資対効果で測定すべきものも多数あります。それらは、出稿終了後もキャッシュフローを生みますので、その分が加味されないと分子が小さくなり投資対効果が過小評価される事になります。これを防ぐには、将来的に当該広告から生じる増分リターンを予測し、現在価値に割り戻してリターンを算出する、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー)を用います。詳しくは(投資対効果の立式)で解説していきます。

ROASという選択肢

 これらのデメリットをクリアする代替案として、ROAS(Return on Ad Spend)というものがあります。ROIが利益ベースでコスト効率性を表すのに対し、ROASは売上ベースで表します。

 ROAS= [広告由来の売上÷広告費用]

 売上データがあれば、後は広告に由来する売上額を算出して割り算をするだけなので、広告主側のデータ準備が楽です(※3)。将来のキャッシュフローの予測も、利益予測から売上予測へと難易度が数段階減ります。また指標として「広告に幾ら使って、広告から幾ら返ってきたのか」という意味合いを持ち、広告費以外の費用科目の変動に対してロバストです。この様に広告管理が目的で、広告のコストパフォーマンスが分かればよいマーケターやブランドマネジャーにとっては、ROASの方がメリットが多い場合もあります。

 デメリットは、ROIと誤認される事があるという事です。字面だけならまだよいのですが、ROIとROASでは損益分岐点が異なります。ROIの損益分岐点は0%です。ROASは少なくとも100%より大きい必要があります(※4)。また、ROASでは売上から何も減じない為、計算上マイナスになる事はありませんが、ROIはマイナスになり得ます。

 ROASは100%より大きい必要がありますが、ROIは100%以下でもマイナスにならなければ利益は出ています。逆にROASで100%以上でも、ROIを計算すると100%を切る場合があります。

 例えば、

 ・売上 4億
 ・開発費 3億
 ・プロモーション費 2億

 ROAS= 4/2×100= 200%
 ROI= (4-3-2)/2×100= -50%

 この様に、必ずしも広告のせいとは限らないのですが、通常の利益ベースのROIに慣れている経営者を混乱させる可能性があるので、事前に十分な説明が必要です。

ROI 解釈上の注意

 「ROIは100%でとんとん」や「ROIが1を切っていると利益は出ていない」の様な表現をしているサイトがありますが、これは間違いです。ROIが100%という事は、投資額と同じ額の利益が出ているという事なので、”とんとん”ではありません。”とんとん”は、ROIの損益分岐点である0%の時です。

 またROIが100%を切っていても、マイナスでなければ利益は出ています。ROIが100%を切ると、(失うかもしれないというリスクにさらした)投資額と同等の利益が期待できないから「割に合わない」という意味で、効率があまり良くないとは言えるかもしれませんが、0%を切らない限り利益にはなっています。

 意味が大きく異なってくるので、この辺りの表現の使い分けは慎重にする必要があります。

広告の費用対効果を利益ベースで考えるべきか、売上ベースで考えるべきか?

 結局、ROI、ROASの意味やメリットデメリットを理解した上で、使い分ける事が大事になってきます。ブランドマネジャーの日常の広告管理ではROAS(売上ベース)で評価し、マネジメントやステークホルダーへの期ごとのレポート、広告以外の投資のROIと広告ROIをApple to Appleで比較する必要がある場合はROI(利益ベース※5)など、目的に応じた使い分けをすると良いと思います。

※1、※5 この「利益ベース」というのは、厳密には会計上の利益ではなく、企業が自由に使う事のできるフリーキャッシュフローを意味します。企業は利益の中から債権者に利息を払い、株主には配当を払う事になります。その為ベースとなる利益は、税引後当期利益ではなく、利息を払う前の営業利益からいわゆるみなし法人税を差し引いた、税引後の営業利益(NOPATといいます)を基に計算する事になります。フリーキャッシュフローとは、このNOPATに減価償却費などキャッシュが出ていかない費用の分割分を足し戻し、設備投資やワーキングキャピタル(原材料の仕入代金など先行して発生した支払いと、売掛金や在庫など未回収の売上分の差を埋める為の現金)を差し引いて求めます。要は、書面上の利益ではなく「手元にある現金」ベースで考えよう、という話です。

※2 指標のロバストネスとは、外的な要因や不確実性に対する頑健性を意味します。指標の”安定感”の様ななものと考えて頂ければいいと思います。本稿の文脈で言えば、「広告のROIを算出するのなら、そのROIは広告に関係無い要因に大きく左右されないように算出するべきだ」という事です。

※3 当然、売上も広告以外の要因に左右されますが、切り離す事が可能です。詳しくは次回「広告寄与の算出」で説明していきます。

※4 ROASの損益分岐点は一意に決める事はできません。原材料費も販管費もマーケもしないで売上が立つという事はほとんどあり得ない為、ROAS=100%では利益は必ずマイナスとなります。従って、ROASの損益分岐については「100%丁度では損、100%より大きくないといけない、しかしどれだけ大きければよいかは場合によって異なる」という事しか言えません。

⇒次ページ「広告寄与の算出」はこちら

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