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「顧客理解を組織に根付かせる」9つの知見

2021/11/08

著者:芹澤 連

顧客理解を文化として根付かせる重要性

昨今、マーケティング業界では「人間理解」が大きなテーマとなっています。2020年に引き続き、2021年のマーケティングアジェンダの開催テーマも人間理解でした。それだけ顧客に対してどう向き合うか、顧客理解をどうビジネスの成果につなげていくかが大きな課題となっていることが伺えます。一方、顧客主義を標榜しつつも、商品企画やコミュニケーション開発などの現場には顧客理解が浸透しておらず、どのように手を付けるべきか分からないといった悩みもよく聞かれます。

そういった背景もあり、著者が勤務するコレクシアにも「顧客を起点に考えることを組織に浸透させたい」、「顧客理解のトレーニングをしてほしい」というご依頼を多く頂くようになりました。そうしたご支援をさせて頂く中で、なぜ組織に顧客理解の文化を根付かせるのが難しいのか、どういった点に注意して進めるとうまくいきやすいのかという経験値が蓄積されてきたので、ご紹介したいと思います。

そもそも顧客理解や顧客体験を教わる機会が少ない

例えば、こんなことはないでしょうか?

「顧客をどう捉えるべきか、メンバー間で視点がバラバラ。」
「ツールの使い方やルーティン業務は詳しいが、戦略を考えられない。」
「部下にABテストや販促は任せられても、ブランドを任せられない。」
「売れなくても、なぜ売れなかったのか分からない。」

顧客が大事という事を頭では分かっていても、そもそもどう顧客を捉えるべきかについては、プロジェクトメンバー間でバラバラということは珍しくありません。実務で使うツールや業務にはマニュアルやルーティンがありますが、顧客を理解して新たな価値を生み出すという仕事にはマニュアルがありません。

一方、「こういう時はこういうデータを集めて、こういう見方をした方がいい」という気付きや経験は、暗黙知として個人に蓄積され、再現できる形式知としては共有されにくい傾向があります。その結果、経験年数はある程度あるのに「販促はできてもブランドが作れない」という状態になります。顧客の反応がイマイチでも、なぜそうなったのか、だからどうすべきなのかを顧客に立ち戻って考える引き出しがないので、戦術を組み立てられないわけです。

なぜこういうことが起こるかというと、大きく3つほど理由があると考えられます。

 ① そもそも教わることがない。教科書がない。
 ② 会社に顧客理解の文化がない。
 ③ 経験を組織の学びとして蓄積する“場“がない

まず、顧客理解や顧客体験を学ぶ機会自体があまりないことが挙げられます。有名なマーケターやビジネスリーダーの本で成功事例を読んだ時は「なるほど!」と思っても、いざ自分の仕事で再現するとなるとなかなか難しいものです。2と3は原因と結果の関係になっている場合が多いのですが、そもそも会社に顧客理解の文化がないので、社員の経験や知見を組織の学びとして蓄積する場が作られないということです。

1. 座学だけ、実践だけ、自己学習だけ、では効果がない

業務を通して得られた気づきや学びは、暗黙知として個人に蓄積していきます。暗黙知は言語化されていないので、そのままでは組織や部下に共有されることはありません。個人の経験を組織の学びに変えるには、暗黙知を形式知に変えていく仕組みが必要になります。こうした取り組みをナレッジマネジメントといい、有名なフレームワークに一橋大学の野中教授が提唱したSECIモデルがあります。SECIモデルでは、表出化、連結化、内面化、共同化という4つのフェーズを経ることで、個人が持つ経験や気付きを組織の知識へ変換していきます。

 <SECIモデルと顧客理解>

【表出化】暗黙知を言語化、図式化することで形式知に変換する
【連結化】形式知を組み合わせる、もしくは再解釈して新たな形式知を生み出す
【内面化】形式知を実際に使ってみることで、自分の暗黙知として体得する
【共同化】共同経験をすることで暗黙知を伝達する

この4フェーズを解釈すると、顧客理解を組織に定着させるためのSECIモデルは次のように表すことができます。

まず座学で、顧客理解とは何か、なぜ必要なのか、顧客の何を理解すればよいのかといった基本を学ぶ(表出化)。次にその基本を使って、実際に業務で直面する課題の解決方法を学ぶ(連結化)。座学で得た知識を実際のプロジェクトで実践・援用することで自分の武器にしていく(内面化)。自分の武器にした顧客理解の方法やアプローチを他の社員や部下と共有する(共同化)。

このように顧客理解を1つのナレッジマネジメントとして捉えることで、有機的に組織へ浸透させていく道筋が立ちます。逆に、「とりあえずセミナーや講座に参加すればいい」、「何でも実戦で経験すれば身につく」というように”点”の取り組みで終わらせると、組織に行き渡りません。それらの取り組みをSECIモデルのように”線”や”円”でつなぎ、組み合わせることで、「組織として学ぶ仕組み」が機能するようになります。

以降は、SECIモデルの4フェーズに沿って、顧客理解を組織に浸透させるためのTIPSを紹介していきたいと思います。

2. みんな「顧客を理解している」と思っている

表出化のフェーズでは、座学で顧客理解の基本を学びます。そもそもなのですが、商売をしている人であれば、顧客のことを考えていない人はいません。ですので本人は、「顧客を大事にするなんて今更当たり前」、「当然できている」という認識を持っていらっしゃいます。一方で、では顧客を大事にするとは具体的に何をすることなのかどうしたら顧客を理解したことになるのかといった辺りについては、各人それぞれが独自の考え方を持たれています。

特に日本企業では定期的にジョブローテーションがあるので、全く違う畑からマーケティング関連部署に移動になるケースも多いと思います。それぞれのバックグラウンドによって、顧客の捉え方は大きく異なってくるわけです。こうしたギャップが「顧客理解って結局どうすることなの?」といった分かりにくさを生んでいる一因になっています。

3. 顧客理解とはどういうことなのか、という足並みを揃える

「みんな顧客を理解していると思っているが、実はそれぞれが異なる理解をしている」という状態は、先のSECIモデルでいう暗黙知が分散している状態といえます。暗黙知なので本人も明確な定義づけをしているわけではありません。

従って、「顧客理解とはおおよそどんな事なのか、日々の業務の中でどういう視点を持つべきなのか」という足並みを揃えることが、まず最初のフェーズになります。理論やテクニックを覚える前の段階で顧客理解の”そもそも論”を整理しておくわけです。これには座学が適しており、コレクシアが主催する芹澤顧客理解ラボでは、「顧客理解入門Ⅰ」というコースで以下のようなテーマを解説します。

 「顧客理解入門Ⅰ」

  • 顧客理解とは?顧客体験とは?
  • 顧客理解の歴史と背景
  • 消費者調査と消費者理解の違い
  • 顧客体験を考えることの本質とは何か。
  • 顧客を理解することで選択肢が増える
  • 課題解決とは何か?課題とは?解決とは?
  • 解決すべき課題の見つけ方
  • 顧客価値とは?
  • 2つの価値創出パターン~課題解決と進歩実現
  • マイナスをゼロにする価値
  • ゼロをプラスにする価値

4. 「どんな時にどんな側面の理解が役立つのか」という引き出しを早い段階で作る

顧客理解を浸透させる初期段階では、もう1つ、つまづきやすいポイントがあります。それは「いざ顧客理解といっても、何から始めればいいか分からない」という問題です。例えばマーケティングリサーチをしてみたけど、あまり役に立つ情報が得られなかったという経験はないでしょうか。もしくはペルソナを作ってみた、カスタマージャーニーを書いてみたけど、その後どうするのか迷ったことはありませんか。

こうしたつまづきの多くは、「顧客の何を理解すればよいのか」が分かっていないことに起因します。一口に顧客と言っても、非常に多くの切り口があります。しかし、取り組んでいるプロジェクトのゴールやフェーズによって、どの側面の理解が役に立つかは変わってきます。従って、「どんな時に、顧客のどんな側面の理解が有益なのか」という引き出しを持っておくことも大切です。

顧客理解入門Ⅱ」では、顧客を理解する切り口として以下のような側面からのアプローチを紹介し、それぞれがどういう課題解決に役立つのかを解説していきます。

 「顧客理解入門Ⅱ」

  • 顧客の変化を理解する
  • 顧客の主観を理解する
  • 顧客の意識と無意識を理解する
  • エス、自我、超自我を理解する
  • 経験則、バイアス、スキーマを理解する
  • 環境と行動の意味を理解する
  • 代替品や代替行動を理解する
  • 生活接点と意味接点を理解する
  • 価値の捉え方を理解する
  • 顧客の進歩を理解する
  • 進歩の原点を理解する

5. 考え方(WHAT、WHY)とスキル(HOW)はセットで覚える

連結化フェーズでは、顧客理解に基づいた課題解決の方法を学んでいきます。ここで大事なのは、「考え方(WHAT、WHY)とテクニック(HOW)はセットで身につける」というポイントです。表出化フェーズでは、顧客理解がなぜ必要なのかというWHYや、顧客の何を理解すればよいのかというWHATを中心に学んだわけですが、実務で顧客理解を活用するためには、

 ● どうしたら顧客を理解できるのか
 ● 実務の個別具体的な課題解決において、顧客理解をどう活かせばよいのか

といったHOW(スキル)を身につける必要があります。HOWだけでは小手先のテクニックになりますし、考え方だけ覚えても実務で成果に繋げていけなければ、それは標語と何ら変わりません。何事も理論と実践のバランスをとることが大事ということです。「戦略プランニング実務」では、実務で頻繁に直面するにも関わらずどうアクションに落とし込むのか分からない課題を例示して、顧客を起点とした解決アプローチやフレームワークを習得します。

 「戦略プランニング実務」

  • 解決すべきイシューの見つけ方
  • 「仮説→検証」型プロジェクトの組み方
  • 潜在市場の見つけ方、定義の仕方
  • 商品を買ってくれるターゲットの見つけ方
  • 意味のある差別化ポイントの見つけ方
  • 真の競合を見つけて、競争を回避する方法
  • 顧客を奪える競合を見つけて勝てる価値提案を作る
  • データからコンセプトやクリエイティブブリーフを書き起こす
  • ブランドストーリーの作り方
  • 実務ではSTPではなく、PSTの順で考える
  • 顧客価値でブランドポートフォリオを整理する方法
  • 新しい生活習慣を根付かせるストーリーメイキング
  • 自社の勝ち筋と負け筋の見極め方
  • 成長性のあるトレンドの見つけ方、検証方法
  • トライアルリピートモデルで売上予測を立てる

6. 関与が薄い人を置き去りにしない

顧客理解を浸透させていく上で最も重要なのが、リカレント学習(継続学習、自己学習)の導入です。特に、新しい取り組みに対して「関与が薄い人」を取り残さない仕組みを用意することがとても大切です。通常、企業が行う教育プログラムでは、社内セミナーや勉強会の開催、外部の講座に社員を参加させるといった取り組みが行われると思います。

しかしどんな企業であれ、そういう取り組みに対して関与が薄い社員が一定割合で出現します。仕事が忙しい、昔からのやり方で十分、面倒くさいなど理由は様々ですが、講義への不参加や無関心は顧客理解に限らずどんなテーマでも起きます。また、最初は面白そうだから参加していたけど、段々と興味が薄れて離れてしまうというパターンも出てきます。

7. 「まずは有志で始めてみよう」は意外にリスキー

そうなると「まずは有志だけで始めて機運を高めよう!」と思いたい所ですが、私の経験上、そういった関与が薄い層を置き去りにすると、後で取り返しがつかない「思想の対立」が起きます。取り組みへの”肯定派””否定派”で、組織が分断されるということです。

ですので、そうした薄い関与を最初から想定し、取り込む受け皿を用意することがポイントになります。各人のペースやタイミングで、少しずつでも参加できる場所を作り、むしろ「薄く長く関わり続けてもらおう」というわけです。また、こうした場所は社外に設けた方が社会的安全性の見地からも有益です。社内に作ると「評価の対象になるんじゃないか」という疑念が生まれやすいからです。

『芹澤顧客研究ラボ』

コレクシアでは、こうした薄く長く顧客理解に触れ続ける仕組みとして、「芹澤顧客研究ラボ」というクローズドのFacebookグループを設けています※。

顧客理解の講座に参加される方はまずここにサインアップして頂きます。学習コンテンツや授業の録画動画などもこのFacebookグループに格納されているので、「あれこういう場合どうするんだっけ?」、「今週は仕事で授業に出られない」という場合でも、自分の課題に合わせて学習コンテンツを選んだり、授業の振り返りをして頂くことができます。また、自分のフィードに新しい学習コンテンツが流れてくるので、都合の良いタイミングで、自分の興味のあるコンテンツから顧客理解に取り組むこともできます。

顧客理解講座】
積極的に学ぶ場。オンライン授業とリアルのワークショップで顧客理解の基本とスキルを学ぶ座学を開催

顧客研究ラボ】
受け身の姿勢でOKな場。フィードで興味の湧いた学習コンテンツを視聴して、実務で使えそうな内容から吸収してもらう。

顧客理解に限った話ではないですが、「分からなかったらすぐ聞ける体制」を整えておくことも重要です。講座の中で分からなかった箇所があったり、実務で困って相談したい時などには、このラボを通して講師に直接質問することもできます。メールのように形式ばらず、社外の専門家に気軽に相談できるチャネルとしての役割も担っています。

ラボは招待制です。コレクシアが主催する講座の受講生と卒業生しか参加できません

8. 部署横断チームで実践プロジェクトを行う

内面化のフェーズでは、座学で得た知識を実務で使うことで自分の武器にしていきます。ポイントは、「顧客理解を実践してみるモデルプロジェクト」を会社が用意することです。なぜかというと、従来プロジェクトには従来プロジェクトの進め方があり、新しいアプローチを途中で取り入れようとしてもうまくはまらず、逆効果になる場合があるからです。また、新しい取り組みに対して肯定的ではない他メンバーからの反対が起こり、積極的な活用が望めないケースも出てきます。

1~2ヶ月程度のプロジェクトを1クールとして、クールごとにプロジェクトメンバーを入れ替えます。プロジェクトメンバーは同じ部署出身ではなく、異なる部署の社員で構成された混成チームにした方が良いです。同じ部署出身のメンバーのみでチームを構成すると、その部署で習慣になっているプロジェクトの進め方に影響されてしまい、新しく学んだ顧客理解のアプローチが使われにくくなります。

またモデルプロジェクトの評価は、成果だけでなく、プロセスの評価(取り組みの多様化、新しい手法へのチャレンジ、変化への期待感など)も行われることを明示的に伝えましょう。顧客理解が実務とつながり、「顧客への理解が深まると自分の仕事がこういう風に変わっていきそう」という小さな期待感や納得感を積み重ねることが重要です。通常のプロジェクトのように「成果しか見ません」と言ってしまうと、チャレンジの芽を潰してしまいかねません。

9. 社内に対立構造を作らない

共同化のフェーズでは、身につけた顧客理解の視点やアプローチを、他のチームメンバーや部下と共有していきます。モデルプロジェクトと自分が所属する部署でのプロジェクトを行き来しながら、メンターやエヴァンジェリストとして顧客理解を広めてもらうわけです。

このフェーズでポイントになるのが、社内に対立構造を作らないことです。特に”反対勢力のボス(発言力、影響力の強い方)”は早い時期に巻き込み、音頭取りや号令をかけてもらうようしましょう。この根回しが遅れると先述した組織の分断を招きます。後から回収するのはとても大変なので、できれば早い時期に巻き込んでしまうことが望ましいです。

まとめ

以上、SECIモデルに沿って顧客理解を組織に浸透させるポイントを解説してきました。要点をまとめると次のようになります。

 ・座学だけ、実践だけ、自己学習だけ、では効果がない。
 ・みんな「顧客を理解している」と思っている。
 ・顧客理解とはどういうことなのか、という足並みを揃える
 ・「どんな時にどんな側面の理解が役立つのか」という引き出しを早い段階で作る
 ・考え方(WHAT、WHY)とスキル(HOW)はセットで覚える
 ・関与が薄い人を置き去りにしない
 ・「まずは有志で始めてみよう」は意外にリスキー
 ・部署横断チームで実践プロジェクトを行う
 ・社内に対立構造を作らない

いずれにせよ顧客理解は、1,2回勉強会に参加して終わり、で実になる類のテクニックではありません。「何を学ぶか」のみならず、「どう学んでいくのか」という中長期の枠組みを事前に検討しておくことが成功の秘訣です。

次回公開予定:なぜ消費者理解が重要なのか?消費者調査との違いと重要性を解説>

芹澤 連

この記事を書いた人:芹澤 連(せりざわ れん)

消費者行動論や統計学、心理学、文化人類学、行動経済学など様々な分野の理論や手法をマーケティングに使いやすい仕組みへ落とし込み、事業会社や広告代理店に提供。著書に『顧客体験マーケティング』(インプレス)。

【芹澤顧客研究ラボ】https://www.facebook.com/groups/serizawaculab/about

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